いじめもケンカも戦争も、あらゆる争いのない世界。
醜い犯罪のない、誰一人脅かされる者の居ない世界。
飢えも渇きも病の苦しみも、老いの恐怖もない世界。
これこそ理想郷。誰もが望み、憧れる幸福な世界だ。
正直に言うと、今も僕はこの通り強く確信している。
「理想郷は消去法ではつくれないよ」
そんな風に君が否定するものだから一寸腹がたった。
例え夢物語だとしても、理想なのだから良いだろう。
僕は、その苛立ちをうっかり口にしてしまったんだ。
「それなら君は付いてこなくていい」
僕は厳しい戦いへ身を投じ地獄の日々を生き延びた。
そして辛く苦しい年月の果てにここまで辿り着いた。
戦争も犯罪もなく、恐怖や苦しみもなくなった世界。
安らぎのなか、風が穏やかに吹きそよぐ幸福な世界。
そして僕が君を連れてくることのできなかった世界。
僕が「要らない」と言った全てが消え去ったここは、
僕の願い通りであり、けれど、もはや理想郷でなく。
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「理想郷」
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所感:
なぜそう書き進めてしまうのか自分でもよく分析できていないのですが「君」と「僕」を文章に登場させると、もれなく「僕」が可哀想な人になってしまいます。
11/1/2022, 7:35:36 AM