空を焦がす星よりも、綺麗で儚い存在を初めて見た。
「名付け親…此《これ》が……」
差し出した指を両手で握り、にこにこ笑う赤子。
未だ眼も開かぬ小さな存在から目を離す事が出来ない。
「頼めるか。この子は鬼《私》の血が濃い故に、繋ぎ止める楔が必要なんだ」
「いや、でも此が名付けなんてッ」
名は縛るものだ。
彼女の言う楔の意味も理解は出来る。妖にも人にも成り得ないこの不安定で小さな光を留めるには、名で縛るしかないだろう。
けれど。いや、だからこそ。此が名を与えるべきではないはずで。
「花曇はそれでいいのか?誉も何で黙ッてる!」
少し離れた場所に座る彼を睨め付けても何も語りはせず。穏やかな微笑みを湛えてただこちらを見つめていた。
「納得しているよ。だからこそ人である誉はこの場では何も言わない…それに東風を選んだのは私達ではなく、この子自身だ」
「ッ…この子、が?」
子に視線を戻す。
握られたままの指をそっと引き抜けば、笑みを浮かべていた顔がくしゃりと歪み、声を上げて泣き出した。慌てて指を戻しその小さな両手に握らせれば、途端に泣き止み笑みを浮かべ。その姿に何故かどうしようもなく胸がざわついた。
「ほらな。東風が良いそうだ」
楽し気に笑われながらそう告げられれば、それ以上は何も言えず。握られている指はそのままに、空いている手で子の柔らかな雪のように白い髪を撫ぜ考える。
花のように笑う小さな白い子に相応しい名を。
「…本当に後悔はしないな?」
最後にもう一度だけ二人に問えば、返る言葉の代わりに頷き微笑まれた。
一つ息を吸い、吐く。
握られた指を引き抜き、脇の下に手を差し入れ抱き上げる。
羽のように軽く、小さなその身体を壊してしまわぬよう気を配りながら。そっと胸に抱き留めて。
「銀花」
溢れ出た名に、異を唱えるものはなく。
愛しい名付け子は、変わらず笑みを浮かべ此を求めるように手を伸ばした。
20240626 『繊細な花』
6/26/2024, 2:59:31 PM