夜汽杏奈

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「モンシロチョウ」

高層ビルが立ち並ぶ都会の真ん中
緑一面広がるキャベツ畑
たくさんのモンシロチョウが
ひらひら、ゆらゆら
儚く美しく、舞っている
どこからか、チェロの低音が響き渡る空

土の香りは微かな祖父母の記憶
涙の雫は白い蝶へと変化した
赤いギンガムチェックのスカートが
お気に入りだった幼い頃
鮮やかな緑と白のコントラストは
一層スカートを鮮やかにさせ
スキップし、両手広げ、
モンシロチョウ達と踊った

「いつでも遊びに来ればいいさ」
シワだらけの二人の優しい笑顔は
いつも私を見てくれる
何よりそのことが、嬉しかった

競争社会で人を蹴落とし
石油の臭いがする、形だけの恋愛をした
高層ビルからは不細工とキャベツ畑を見下し
土の香りを忘れてブランド物の香水を付けた
物質界に染まった、偽の幸福はモノトーン
メトロノームの音だけが止まない現実
そこにモンシロチョウはいなかった

キャベツ畑のオアシスで
赤いギンガムチェックのハンカチを
風になびかせましょう
たくさんのモンシロチョウは
ひらひら、ゆらゆら
Androidのチェロの音と共に
ヒールを脱ぎ捨て夢と歩きましょう

嘘と虚栄心と不安に飲み込まれていた数分前
何も反射しない高層ビルに吸い込まれていく

今からは自由で真っ白な蝶になりましょう
シワだらけの二人の優しい笑顔が
手を振り迎えに来てくれるまで
たくさんのモンシロチョウと睡眠薬
ひらひら、ゆらゆら
もうあのビルには戻らない
キャベツ畑のオアシスで
赤いギンガムチェックのハンカチを枕にして
微笑みながら眠りましょう




5/10/2023, 1:49:41 PM