たまき

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#120 さよならは言わないで


冬はその寒さやイベント柄、人恋しさが募る季節。
だからかな?人付き合いを連想させるようなお題が多い気がします。


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いくらか年数が経った地球。
気候や地殻の変動により、
地球上の生物は生存を脅かされていた。

人間は、地球と運命を共にすることを良しとせず、
政府は全人類による地球型惑星への移住を謳い、その研究に心血を注いでいる。
AIによる宇宙航海はもちろん、特にコールドスリープ技術は目覚ましい進歩を遂げていた。


しかし、人が集まれば欲望がぶつかり、やがて争いが生まれる。
コールドスリープ開発の第一人者でありながら、醜い争いに辟易し、宇宙船に積み込むよりも地球で眠りにつくことを選んだ科学者がいた。

「なんで!」

「…ごめん」

「そんな、この為にずっと頑張ってきたんでしょ?私だって小夜だから、小夜なら…」

「言わないで。もう、疲れちゃった。あなた以外の人も一緒に缶詰めにされるなんて想像するだけで吐きそうよ」

軽い口調ながら本心を語っていることは、顔を見るだけで分かる。
耐えがたい別れの言葉。
衝撃の大きさに、まともな言葉が出ない。

「それなら、私も…」

「ううん、これでいいの」

「でも」

「それに、先に目覚めた方が迎えに行けるでしょう?」

「ん…うん。そう、だね。…わかった」

先の見えない未来に小さすぎる希望。
引き裂かれんばかりに痛む心。
でも、さよならは言わないで済む。

そのことだけが救いだった。


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「さよならできる」を狙って、最初はスパルタ教育みたいのを想像していたんですけど、
前回のお題で連想していたハビタブルゾーンに引っ張られました。

じゃない方も、一緒に眠って片方だけ目覚めるパターンよりは、と考えたかもしれません。


幾多に光る星々を眺めて。
想う人が、自分と同じように想ってくれていると信じられるなら。
それは、きっと幸せなことに違いない。


こんな話になったのは、
サン=テグジュペリの星の王子さまのせいかもしれないなぁと本を読み終わって気づきました。

12/4/2023, 12:21:42 AM