いろ

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【花畑】

 色とりどりの花々が、まばゆい太陽の光を受けて無数に咲き乱れる。その真ん中でそっと、祈るように膝を折った人の後ろ姿へと僕は声をかけた。
「陛下、そろそろお時間です」
 ようやく他国からの侵略を退けたばかりの今のこの国にとって、復興会議は何よりの優先事項だ。遅刻など決してさせるわけにはいかない。
「……ああ、わかっている」
 そよそよと吹く風が可憐な花々を揺らす。静かに振り返ったその方は、いつものようにうっすらと微笑んでいた。その瞳の奥底へと、孤独と悲哀を封じ込めて。
 咲き誇る花々の一つ一つには、この方の手で名前がつけられている。王のためにと戦場に赴き、そうして死んでいった者たちの名が。
 この花畑は、棺そのもの。国を導き民を守る立場にありながら救うことのできなかった命の数を、ほんの少し時間ができるたびに僕たちはこの場所で再確認する。
 清らかな花の形をした罪の証を、これ以上増やすことのないように。彼らの犠牲に見合うだけの未来を、せめて実現するために。陛下はまだ玉座に腰掛け続け、僕はその傍らに第一の側近として立ち続けている。
 真っ直ぐに背筋を伸ばして会議場へと向かう陛下の半歩後ろに付き従い、僕は美しき花畑に背を向けた。

9/17/2023, 11:28:03 PM