えだまめ

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「きたよおにーちゃん!おそとあつーい!!」
ドアを開けたらカラコロと鳴る心地良い音。
茶色いカウンターの奥には、微笑んでいる青年がいた。
「いらっしゃい。夏パフェだね」
「ん!あのね、ままからお小遣いもらったの」
「見せてみ?……よし、ちょうど1000円ぴったり。みおのお母さん、夏パフェ食べることわかってたみたいだね」
「はやく!おにーちゃん、はやく!いお、待ち切れない!」
おにーちゃんこと、店員の青年は、1000円を何処かに置いてくると、カウンターの奥からパフェの容器を取り出してきた。みおの好きなフルーツやクリームはなく、からっぽだ。
「あぇ…?いおのパフェは……?」
不思議そうに首をかしげるみおを見て、青年は微笑んだ。
そして、とある事を説明する。
それを聞いたみおは顔を輝かせた。

「はぁあ……あっつーい」
勢いよく開けたドアから、カラコロと愉快な音がした。
茶色くて、少し古びたカウンターから、あの頃となぜかちっとも変わらない青年が微笑んでこちらを見ている。
「いらっしゃい、みおちゃん。夏パフェ、かな?」
「ん…えっと、1000円だったよね…はい」
「うん、丁度1000円お預かり致しました」
「はー、マジ暑い。てんちょー、早くぅ」
「はいはい」 
青年は、みおの目の前に、どんとパフェの容器を置く。
青年は笑顔で言う。
「何をのせますか?」
みおも笑顔で答える。
「バナナといちご、あと生クリームで」

あっという間にできた超美麗完全無欠パフェを連写した後、みおは大きく一口頬張った。
甘くて、柔らかくて……甘酸っぱい。
「あ゙ぁーっ、これだこれ!うまっ……!」
「そういえば、このシステムを説明する前、みおちゃんほんと面白い反応してたよね」
「それって夏パフェがここにできたばかりの頃のこと!?めっちゃ昔じゃん。懐かしいなー、私、自分のこと『みお』って言えなくて、『いお』って言ってたなー」
「あはは…そんな頃もあったね。…でも、今やみおちゃんは高校生。まだ通ってくれてるなんて、ほんとみおちゃんには感謝だよ。なんでこんなボロっちい所に通ってくれてるの?」
ぐっ…と生クリームが喉に詰まりそうになった。
「ケホ……え、えっと…やっぱ馴染みがあるし…料理が美味しいから、かな」
「わー!そんな事言ってくれるなんて嬉しいよみおちゃん!」
そうやって少年のように目を輝かす―何歳か分かんないけど―そんなとこ。
私は料理が美味しいのも、馴染みがあるっていうのも嘘じゃないけど……。
ニコニコしながら私が夏パフェを完食するのを待っているてんちょ……おにーちゃん。
ほんとの理由は、あなたなんだけど……まだ子供扱いされてるみたいだし、当分気づいてもらえそうにないや。
でもいつか、そう見てもらえるようになるまで、通ってやる。
完食した夏パフェから、爽やかで甘酸っぱい、胸がきゅっとなるような夏の匂いが漂ってきた。

6/28/2024, 11:25:30 AM