朗々

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たぱり。頬を濡らしたそれを拭う暇もなく、傘も持っていないのにあたりは一面土砂降りになってしまった。さいあくだね、と呟けば、そうだね、と笑う友達の顔に影が差す。家族と喧嘩をして家に帰り辛いという話をしていたのに、到底徒歩では帰れないような環境になってしまったためだった。

「ほんと、散々だね、私たち」
スマホを握りしめ、俯いたまんまの彼女は言う。雨に包まれるように溢れた言葉に混ざり込む、生まれたての子猫みたくか弱い嗚咽に知らんぷりをして、わたしはひたすらこの雨が止むのを待っていた。彼女は弱さを見せることを嫌うから。ただちょっとだけ、共鳴するようにざあざあと音を立てる水の粒を羨ましく思いながら。


ふたりとも家に帰って、学校に行って、そのうち青空が痛いほどになって、青い風がスカートを揺らして。ついに社会に解き放たれてまた何度目かの秋を迎えた、何でもない日。久しぶりに覗いた郵便受けの中には、同級生の葬式参列の有無について記された紙が置かれていた。流れるように口に出せば、思い出がまざまざと蘇る。間違いなく、あの友人の葬式だった。

急いで電話番号に連絡を入れ、数日後大慌てに慌ててたどり着いたそこで、彼女は幾分かちいさな箱のなかで眠り込んでいて、あたりに飾られた名前も知らぬ花々が顔色を良くしようとがんばっているよう、に見えた。あの時喧嘩していたお父さんにどうしてと聞けば、悪腫瘍が移転したことによってできた病気で、と瞳をゆるりと潤ませながら教えてくれた。入院中の話をついでに語られながら、学生時代とは全く違ったその様子に、彼女が幸せだっただろうかと、素直に思った。わたしは幸せのキーにはなれなかったのだな、とも。

燃えたあとの遺骨をどうこう、というものはなく、私を含めた同級生その他親戚友人一同は、彼女に手を合わせた時点でお開きとなった。随分あっけない終わりだと、かの日を重ねて思う。

ふと、時計を見やると、時刻を見る前にぽたり、と視界がぼやけた。ぽた、ぽたと持続して降るものに手を伸ばし、黒い服の袖で拭う。涙ではない。天気が悪いから降る、あの雨だった。さっきまで葬式にもかかわらず、見事な晴天だったのに。
_もしかして。もしかしたら、人前でとてもとても意地っ張りなだけで、実は泣き虫な彼女が、私のために泣いてくれているのだろうか。どうして泣かないのと、怒ってもいるのだろうか。

ありがとう、と呟き、鞄の中の傘を差した。雨粒の姿をした彼女が、寂しがりな彼女が入ってこられるように、少しだけ自分の肩を濡らしながら。

空が泣く

9/16/2024, 4:08:52 PM