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海辺を通るバスの中、夕陽が水に溶け込むのを見て、ふと初恋の日を思い出す。

私の初恋は、幼稚園の頃だった。いや、今となってはあれが恋なのかすらわからない。もしかすると、ただ家が近いのが珍しくて、その希少性からくる親近感のような好意、だったのかもしれない。あるいは、周りの子達は今考えるとかなりませていたようで、私の曖昧な気持ちを恋だと思い応援されていたことによる勘違いかもしれない。

それでも、少なくとも相手のことは友達として好きだったことは間違いない。園では無口だけど、家で遊んだ時は普通に笑うし普通に喋る。そんなギャップが、幼いながらに可愛いとでも思っていたのだろう。

そんな可愛らしい恋をしていた私も、成長するにつれてその心を失ってしまった。小中高全てで恋はしていたはずなのだが、その全ての結末は「恋とは何か」で失恋。
「恋」はどんな感覚なのかわからず、長い間迷走している。そして、今日も。

あの頃の純粋な恋心は、あそこに沈みゆく太陽のように消えてしまった。それでもいつかは昇ってくると信じて、今日もまた、帰路に着く。

5/8/2023, 9:37:07 AM