夏緑樹林

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「目が覚めるまでに」

まだ夢の中。
まだ、君と手を繋いでいられる。
今日こそは目が覚めるまでに、君の名前を呼びたい。
そんな僕の願望を知ってか、君の輪郭が次第にぼやける。

ぼやける君に続くように、目覚まし時計が僕を呼ぶ。
起き上がり、君を反芻する。
夢の中で繋いだ手の感触や君の柔らかい笑顔を、細部まで覚えていられるように思い出す。

──我ながらキモイなぁ。

現実では、話したこともないただのクラスメイトの君と僕。
君は僕の名前を知ってくれているだろうか。
僕は君の夢を見てしまう程、君に夢中だ。
君の夢を見ているなんて、知られたら気持ち悪がられるに決まっている。

現実と夢とのギャップが辛い。
あわよくば、君が話しかけてくれたりしないだろうかと、
君が読んでいた本を僕も読んだ。
前髪をあげたセットが好きだと、偶然聞いてしまった友達との会話。聞いたその日には、髪の毛のセットを練習した。
だが、成果はまるで得られない。
ひよっている自分が情けない。

──今日こそは絶対に話しかける!

と意気込んだのも、もう何回目か分からない。
だが、その意気込みは今日、裏返った声の挨拶となって君に届いたのだった。

8/3/2024, 4:11:38 PM