セイ

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【終わりにしよう】

長時間の攻防の末、ようやく「奴」を路地裏に追い詰めた。
世間を騒がしてきた「大怪盗アナザー」の正体を暴く時が来たのだ。

「もう終わりにしよう」

僕は標準を合わせながら次の彼の行動を警戒した。
彼は慣れた手つきで仮面を外す。

「…久し振りだね」

仮面の下には僕と瓜二つの顔。
他人の空似かと思ったが、彼の目元の傷には覚えがあった。
幼い時、僕を庇って目元を大火傷した兄さん。
熱くて痛いはずなのに涙すら流さず僕の心配をしていたのを今でも覚えている。

「まさか…本当に兄さんなのか?」
「あぁ、そうだよ」

暫くの沈黙の後で兄さんがゴホゴホと何度か咳き込んだ。
口元を押さえた兄さんの手からは血が零れ落ち、兄さんは顔をしかめた。

「…この通り、僕は先が長くない。今捕まえようが逃がそうが、『大怪盗アナザー』はもうすぐ終わりを迎える」

兄さんは口元の血を拭って座り込む。

「僕は僕なりの正義を貫いた。君たち警察が把握していない盗難品を調べ上げ、それを真の持ち主に返していただけ。これが嘘だと思うなら例の情報屋にでも聞けばいいさ。…で、どうするんだ?僕を捕まえるのか?」

兄さんは僕の目をじっと見つめる。
心の奥まで覗かれているような、考えが全て見透かされているような気分。
悩んだ末、僕は拳銃を降ろして兄さんに背を向けた。

「…僕はいつだって『正義の味方』だ。お前の『正義』は少し歪んでいるけど、僕はその『正義』が『悪』だとは思えない。だから今日、僕は…お前を捕まえない」

捕まえたら昇進は間違いないし、警察失格の回答だとは分かっている。
だけど、僕は自分に嘘をつきたくない。

「…また会おう、『我が宿敵』よ」

振り向くと「大怪盗アナザー」は消えていた。
代わりに残されたカードには「あと5つ。by大怪盗アナザー」とだけ書かれていた。

あと5つ。
これが終わったら僕は警察を辞める。
宿敵は血の繋がった兄弟で、手を伸ばせば捕まえられる所を僕は見逃した。
だから警察を辞めるのは僕なりのケジメのつもりだ。

警察と大怪盗アナザーとの対決の終わりは近い。
次は、容赦しない。

7/16/2024, 12:22:18 AM