まとー(しばらくお休み)

Open App

テーマ『記憶』

今にも崩れんばかりの書類の山に埋もれるようにして、僕は筆を走らせていた。
領土の拡大と共に膨れ上がる仕事。路頭に迷うよりはまだいいが、こうも忙しいのも大変だ。
「失礼します」
控えめに戸を叩く音と共に役人が部屋に入ってくる。彼の抱える書類の束を見てため息を付きそうになるのをこらえる。
「そっちの籠に入っているのはもう終わったから、持って行ってくれ」
「こちらですね」
役人は空いた場所に書類を置くと、代わりに同じくらいの山を抱えて出ていった。

すっかり冷めきった茶を一口飲んでから、次の書類を手に取る。
それに書かれていたある地名が目に止まった。遠く離れた故郷だ。もう何年も帰っていない。
記憶にあるのは、かつて同じ師の元で学んだ旧友たち。皆、僕と比べるべくもなく優秀だった。「世界をひっくり返してみせる」。そう豪語したかつての友は、風の便りで派手なことをしていると聞く。
あのとき、自分はどんな夢を語っただろう。そもそも語る夢などあっただろうか。
何も書かれていない書類を前に、筆が止まった。

3/26/2025, 2:06:23 AM