ミキミヤ

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「食べる?」
そう言いながら、君は白地に七色の豆型の粒が舞う細長い箱を差し出してきた。ジェリービーンズだ。7つの色に7つの味、たしか、フルーツ風味が多かった記憶がある。
「うん」
私は反射的に頷いて、君が差し出す箱のそばに手のひらを差し出した。
君がシャカシャカと箱を振る。すると、中からコロンと水色のジェリービーンズが手のひらへ飛び出してきた。
「ありがと」
そう言って、口にその水色の粒を放り込む。歯で噛み潰すと、甘いような酸っぱいようなどこか炭酸を想起させるような何とも言えない味がした。ソーダ味だ。私は思わず眉を顰める。ソーダ味の菓子は苦手なのだ。これに入っているとは知らなかった。
「あれっ、ソーダ味苦手だったっけ。ごめん!」
君が顔の前で両手を合わせて眉を下げる。私は、君にその顔をさせているのが申し訳なくて、
「平気だよ」
ととっさに笑顔を作って、嘘をついてみせた。のだが。
私の顔を見て、しばらく君は耐えるような顔をしたかと思えば、ついに小さく吹き出した。
「……ふふっ、ごめん、人の顔を笑うとか失礼だってわかってるんだけど、あんまり下手くそな笑顔だったからつい。無理しないで吐き出してもいいよ。それか、お茶飲む?」
どうやら私は笑顔を作るのに失敗していたらしい。君は申し訳無さげにしながらも笑いを抑えられない様子で、自分のリュックからペットボトルのお茶を取り出して私に差し出している。
私はそれを断って、口に残ったソーダ味のジェリービーンズを、そのままゴクリと飲み込んだ。味は多少口の中に残っているが、しばらくしたら消えるだろう。それよりも。
「そんなに変な顔になってたかなあ」
私はひとりごちながら、両手で自分の頬をムニムニと上下に揉んだ。すると、また君から笑いの気配。
「もおっ、またおかしな顔になってるよっ」
君は手で口元を抑えながら、抑えきれない笑いを漏らしていた。
それを見て、私は、頬を上に持ち上げたところで止めて、君の方へ向き合った。そして、目元に力を込めて、三日月型にしてみせる。
「やだっ、わざわざ変顔しないでよー!」
私の狙い通り、ついに君はお腹を抱えて笑い出した。「笑いすぎて涙出てきた」なんて言っている。
その様子を見て、私も楽しくなって、一緒に笑った。

七色の中から偶然飛び出してきた水色のジェリービーンズ。苦手な味のそれが、君のこんな笑顔を見せてくれるとは。偶然もいい仕事してくれるじゃん、なんて思った、春の午後だった。

3/27/2025, 6:24:49 AM