部屋の片付けをしていたら、クローゼットの奥にしまいこんだ箱から小さな封筒と封もされず折りたたまれた紙が出てきた。
どちらも少し色あせていて懐かしさを感じる。折りたたまれた紙には、右肩上がりの不器用な文字で
「好きです。付き合ってください。」
と書かれていた。
中学のころ、同じクラスだった彼。私の隣の席に座っていて、いつも私をからかってばかりいたくせに、何気ないときに優しくしてくれた。そんな彼が珍しく真剣な顔をして少し震える手でくれたこの手紙を、私は驚きと戸惑いの中で受け取った。
その日の夜、私も彼に手紙を書いた。彼のあんな顔を見るのは初めてで、何度も書き直し、言葉を選びながら手紙をしたためた。
放課後、手紙を渡そうと彼を呼び出した。だけど、私に呼び止められた彼の顔を見た瞬間、手紙を渡すのが惜しくなった。
言葉で伝えたい
そんな思いが湧き上がり、私はポケットの中で握りしめていた手紙から手を離した。そして、震える声で彼の胸の辺りを見ながら言った。
「伝えてくれてありがとう。私も好きだよ。」
恐る恐る彼の顔を見ると、驚いたように目を見開いた彼がニカッいつもの顔で笑った。その笑顔を見て、私はこれでよかったのだと確信した。
あの日の空気の温度も、夕暮れの色も、まだ鮮明に覚えているのに、その後の記憶は少しずつぼやけている。私は二通の手紙をそっと重ねた。彼からの手紙と、私が渡せなかった手紙。
あのとき、言葉で伝えることを選んだ私を、今は誇りに思う。
もう過去には戻れないけれど、この手紙を見つけたことで、私はあの頃の自分ともう一度向き合えた気がした。新しい生活が始まる今、もう一度勇気を持って進んでいけるような気がする。
2025/02/02 隠された手紙
2/2/2025, 11:27:12 AM