与太ガラス

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 ゴゴイチで商談が入っていた。普段からやり取りのあるメーカーとの打ち合わせで、それほど緊張感のあるものじゃない。手帳とペンと、要らないとは思うが念のためノートPCも持っていこう。必要なものを手に取ってメーカーを出迎えに行った。

 対面すると、担当者の他に普段見かけない女性が同行していた。担当者は新しい上司だという。

 なんだよ、ダラダラ雑談できないじゃんか。

 私は丁寧に挨拶をして名刺を交換する。

【クリエイティブ営業企画部チーフ】

「チーフって何長ですか?」

 と喉元まで出かかったが飲み込んだ。その空気を読み取ったのか、担当者が補足する。

「ウチの会社では係長のクラスです」

「ああそうなんですね」愛想よく笑いながら答える。

 私はいいけど、チーフの前で「ウチの会社」はいいのかな、担当者くん。

「ご足労いただきありがとうございます。先ほど雨が降っていたようですが、大丈夫でしたか?」

 会議室に入り、座りながら世間話を始める。

「ええ、駅に着いた時には止んでいましたので、降られずに済みました」

 チーフが答える。それは良かったです、と言いながら私は商談の流れを組み立てる。今日の議題は店頭イベントで販促をかける目玉商品の選定と企画内容だ。

 話はスムーズに進み、結果的には決済権のあるチーフねえさんを連れてきた担当者くんのファインプレーで、割引率も限定数量もほぼ確定レベルまで決めることができた。

 別れ際、エレベーターでお送りするときに、チーフねえさんが思い出したように振り返り、

「ああ、最後にひとつだけ」

 右手人差し指を立てながら私に向かって言ってきた。

「ウチの商品で販促するなら、絶対に他社よりも安く出してくださいね。売上は保証しますよ」

 あ、この人、杉下右京みたいな人だ。

 でもそれ、会議室出るときにやってくれよ。エレベーター待たせちゃうじゃんか。

9/29/2024, 12:53:23 AM