Open App

クーラーの効いた車のなか、私はまどろんでいた。
光と陰が降り注ぎ、心地よさにいつの間にか意識を手放していた。

遠くではしゃぎ声と叫び声が聞こえる。
私はどうしてここにいるんだっけ?
「ターッチ」
あ、そうだ鬼ごっこしていたんだ。休み時間の校庭で、クラスメイトの子たちと一緒に。
ずいぶん彼らと離れてしまった。少し戻ろう。
歩き出したときに、なにかが動く気配がしてそちらを振り向く。
なにかいる。なんだろう。そーっと近づいていく。
逆上がりの補助板のうら、そこに彼女はいた。
彼女は小さな世界をつくっていた。葉っぱのテーブルに、小枝のソファー、どんぐりの住人。
「わあ、すごい」
彼女は肩を揺らしていた。驚かせたことを謝り、
「私も一緒に遊んでいい?」
そうお願いした。彼女はコクンと頷く。
彼女はすごく無口で、だけどとても優しかった。
それから私は休み時間の度に彼女に会いに行った。雨でなければいつも彼女は補助板のうらで遊んでいた。そして私は毎回そこにお邪魔していたのだ。
それが彼女との思い出だった。

「おーい、ついたぞ」
父に起こされ、私は伸びをした。
車内から出れば太陽が照りつけた。私は手庇をつくる。
祖母の家はやたら広い。その廊下を歩いているとがさがさと音がした。半開きになった襖から首をのばす。
広がるのは小さな世界。木製のテーブルに、木製のイス、多種多様のぬいぐるみたち。
私はなつかしさに目を細めた。

7/7/2024, 4:03:11 AM