目の前にある猫は体から血を流している。赤黒い液体はその個体の周りに水溜りをつくっている。間違いなく死んでいる。そのすぐ側に、そいつは両手をだらんと投げ出しうなだれていた。その指先と地面の間には、テレビかなんかで観たことのある獣を捌くようなナイフがぬらぬらと輝いている。そいつの顔は長い前髪に隠れていた。奥からのぞいている熱く充血した瞳と目があう。まずい、と本能が言った。はやく、ここから離れなければ。
俺は足に力を込めようとする。だが、上手くいかず、それどころかその場から一歩も動けなかった。瞬間、世界から現実味が消えた。ゆっくりとした動作でそいつはナイフを掴み、こちらに近づいてくる。赤黒い液体を滴らせながら。
「やめてくれ」
案の定、哀願は届かない。聞く耳を持たないタイプなのだろう。こうなれば、もはや殺戮機だ。殺戮機は最期にこういった。
「俺は、お前に潜む好奇心だ」
2/24/2024, 7:47:59 PM