fumi

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いつものようにわたしは、園庭の隅にあるお気に入りの青い木馬にまたがった。
誰にも先を越されないよう、昼休みになると真っ先に自分の居場所を確保した。草が生い茂り、木陰にある少し薄暗いその場所は他の子達には不人気で、わたし以外ほとんど誰も寄り付かなかった。
「ねぇジミー、今日はなにをしてあそぼうか」トカゲに向かってクローバーを差し出すと、ジミーは驚いて草むらにとびこんで姿を消した。
「またね、ジミー」そう言ってクローバーをジミーのいたところにおくと、シロツメクサの花束をつくって、香りを思い切り吸いこんだ。

先週、先生がうちにきてお母さんと話しをしていた。
「もう少しほかの子達とも積極的に遊べるといいんですが。」
園庭の中央にはジャングルジムがあった。青い空の下、元気な男の子たちが、我さきに息をきらせながら上へ上へと登っていく。一番先に頂上まで登った子は、お城を征服した王様のように、誇らしげで、彼にしか見えない景色を見、彼にしか感じられない風にふかれていた。

わたしは、必死に上へ上へ登ることに興味を持てなかった。下のすみっこでトカゲや植物たちを眺めているほうが好きだった。

夕暮れどき、一人、また一人、お迎えがきて園庭には誰もいなくなった。昼間王様だったあの男の子も、お母さんがくると泣いて駆け寄り、ぎゅっと手をつないで帰路についた。

わたしは誰もいなくなったジャングルジムに登った。
体の重心をうまく使えず、無駄に力を使いながら、一歩一歩上へと登っていった。
一番上まで登りきると、ゆっくりとバランスを取りながら腰を下ろした。足元をすり抜ける猫のようにように、遠くの山々からふく風が、わたしの皮膚をなでながら駆け抜けていった。それは自分が透明になるような不思議な感覚だった。
ジャングルジムの頂上から見る景色は、誇らしげにも王様気分にもなれなかったけど、そこから見た夕暮れの赤や青、紫色の、太陽が最後に残した、美しく、少し寂しい物語は、わたしだけのものだった。




9/24/2024, 4:30:21 AM