悪役令嬢

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『終わりにしよう』

華やかな貴族のサロンに、色とりどりの
ドレスを纏ったレディ達が集う。

その中でも一際目を引くのは、
深紅のドレスに身を包んだ悪役令嬢。

「前から疑問に思っていた事なのですが、
メア様はなぜ悪役令嬢と名乗って
いらっしゃるのでしょうか?」

貴婦人の問いかけに、
悪役令嬢が自信満々に答える。

「ふふん、それはですね……。私が神から
悪役令嬢になるようにと命じられ、
この地に産み落とされたからですわ」

「まあ、なんと崇高な使命を……!
素晴らしいですわ、メア様!」

「おほほほほ!そんなに褒めないでくださいまし」

周りからヨイショされてご満悦の悪役令嬢。
だがしかし、彼女の地獄耳は隅で囁き合う
若い令嬢たちの声を聞き逃さなかった。

「神から与えられた使命?ですってw」
「自分で言ってて恥ずかしくないのかしら」

「そこのコソコソ話してる二名!
聞こえてますわよ」

悪役令嬢の言葉に、二人は慌てて
扇子をパタパタとあおいだ。

コツコツと踵の高い靴を鳴らして
回廊を歩く悪役令嬢。

「メアか、久しいな」

振り返ると、黒髪を後ろに撫で付けた美しい
紳士、彼女の兄であるウィルムが立っていた。

「お、お兄様……ご機嫌麗しゅう」

「お前が悪役令嬢と名乗っていると貴族たちが
噂していたぞ。最近、流行っているらしいな。
異世界転生?無双?あんなのは現実の暮らしが
上手くいってない輩が読む本だろう?お前も
いい歳なのだから、いい加減卒業したらどうだ」

「うっ」

殺傷能力高めの言葉が悪役令嬢を襲う。

それからも兄の小言は延々と続き、
ようやく解放された彼女は
薔薇園のガゼボで深い溜息をついた。

「もう、これで終わりにしようかしら」
「何を終わりにするのですか?」

優雅な足取りで近づいてきた魔術師。
フロックコートを華麗に着こなす姿は、
まるでどこかの貴公子のようだ。

「あら、あなたがこのような場に
顔を出すのは珍しいですわね」

彼は孤児院の子どもたちが作った
ビーズのアクセサリーを売りに来ていたという。

「金と暇を持て余した貴族たちは施しの機会に
飢えていますからね。ところで先程は
一人で何を話されていたのですか」

「もう悪役令嬢と名乗るのをやめようかと」
「えーっ!」

事情を聞いた魔術師は
うんうんと深くと頷いた。

「僕もよく祖父に言われますよ。お前には
責任感がない、貴族が中流階級や労働者階級
の人々のように働くのは恥ずべき行為だとか」

「あなたは家を継いだら
店を閉じてしまうのですか」

「とんでもない!これからも続けていきますよ」

我が道を行く魔術師に悪役令嬢を目を細める。

「ふっ、素晴らしい心がけですわね」

彼に励まされた悪役令嬢は、これからも
自分らしく生きていこうと決意したのであった。

7/16/2024, 7:00:06 AM