つつ、つ、
冷え込み始めた朝方、馴染み親しんだこの景色を見られるのは今日で最後なのだと名残惜しく思う。
薄暗くも、雲のない空を見上げてふっと息をつく。
じっくりと目を凝らさなければ、気付かないほどの息白が最近になって現れてきた。
日光と触れた一葉が紅く、山吹に染まるころ突如として私の結婚が決まった。
お相手は隣町で一番裕福とされている問屋のご長男。
今頃は乱暴で傲慢な方が多いとされる男方だが、この方は心優しく評判が良いと言われている。
帰りたいと言えば、帰らせてくれると皆は言うけれど、一度嫁いだ者の家は、嫁ぎ先の家だ。
甘えなぞこの私が許さない。
窓辺の冷たくなった縁を未だ熱い指で撫でていた。
「お嬢さま、お体が冷えますよ。中へお入りくださいな」
子供のころから私についてる婆が言う。
「そうね、ありがとう」
婆はもう年老いていて、嫁ぎ先の家にはついてくることがない。
あと少しでこの庭とも婆ともお別れだ。
それでも私は変わらないまま生きていきたい。
11/29/2025, 11:19:00 AM