「明日、何が食べたい?たまにはフルーツとかどう?」
私の問いかけに気怠そうに目を開けると、微かに嬉しそうに彼が微笑む。
「ありがとう……苺高いかなぁ…無理しなくていいよ、来てくれるだけで嬉しい」
ベッドの柵に置いていた、私の指先にそっと触れた。
男性としては、元々、肌も白く華奢で綺麗な手をしていた、私が大好きな優しい温もりを纏う。でも、いまは硝子のように壊れてしまいそうで、私より細く人形のような指先。
「もう少しここにいるから、安心して」
彼の頬にそっと触れる……予想より高い体温に不安になり、動揺しないように……絶対に悟られないように、いつものように笑顔の仮面を貼り付ける。
「うん……今日はね……眠るまで側にいて欲しい……何故かな……」
私の掌が冷たく気持ちが良いのか、気持ちよさそうに、嬉しそうに微笑む。そして、そのままうつらうつらと微睡み始めた。
最近、よく目にする彼の姿であるはずなのに……何故だろう、とても不安になる。
このまま揺り動かして、寝ないで!と懇願したい衝動と胸騒ぎが拭えない。
規則正しく白く曇る酸素マスクに、そっと安堵の息を漏らす。
大丈夫、絶対に大丈夫……いつも通りだよ、熱も最近よくあることだから……私が不安になってはダメだ。
無機質な白い空間に、たくさん繋がった点滴の機械が目に入り、さらに不安が増す。
昨日より点滴の種類が増えている……
「煩かったらゴメンネ……聞いてほしくて……本当は退院したときに伝えようと思っていたけど、いま伝えたくなっちゃって……いまも、これからも二人共、おじいちゃん、おばあちゃんになっても、ずっとずっと一緒にいよう、大好きだよ……結婚しよう……離れたくないから……ずっと側にいて……お願い……私は貴方がいれば何もいらない……」
壊れそうな掌をそっと私の掌で優しく優しく包み込む、この世で一番大切な宝物。
『愛を叫ぶ。』
5/12/2024, 10:07:33 AM