(カクレンシュウ中)・×・)

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『一筋の光』

⚠️自殺表現注意! 
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僕は、生ける屍だった。
あの事件以来…
悪夢のせいで満足に眠る事も出来ず、食事も味覚部分がおかしくなり、死なないように摂るただの作業と成り果てた。人付き合いだって、情緒が不安定なせいで上手くいかない。
人生とは、全く持ってクソッタレなものだと普段から感じる。僕みたいな下の人間は、ボロ雑巾のように働いてやっとの事で衣食住にありつけるのに対して、上の人間は、そんな底辺の苦労も知らないままに、のうのうと甘い汁だけを吸い楽に生きている。
これは、僕の感性が歪んでいて、悲観的な考えを持っているというのもあるだろう。だけれど、世の中、不公平だ。公平なんて、あったものじゃない!!
だから、ここから…会社の屋上から飛び降りてやろうとフェンスに手をかける。後はもうここから飛び降りるだけとなった時、ガチャリと音が鳴り扉が勢いよく開く。

「……お前、何してるんだ」

その声は、怒りとも焦りとも聞き取れる声色をしていて、走ってきたのか肩で息をしていた。
僕が、屋上に行こうとしているのを見た同僚から、サボりだと先輩に伝えたのだろうか。それならば彼はなぜ、こんなにも焦ってここへ来たのだろうか、。
考えれば考えるだけわからなくなってくる。

「何、って…死のうとしてるんですよ。もう人生に疲れちゃったので」

ニコリ。
そう効果音が付きそうなくらいに彼に笑って見せるといつもの仏頂面がさらに歪む。
あぁ、どうして、そんなにも辛そうな顔をしているんだろう…僕の事なんか何にも知らない癖に。

「じゃあね、先輩」

目を瞑り、フェンスから手を離す。
次に襲ってくるのは痛みだろうか…。
まぁ、なんでもいい…。

……、………、。……………?、、。

いつまで経っても、次の衝撃がやってこない。
恐る恐る目を開けると、先輩が顔を真っ赤にして僕の腕を両手で掴んでいた。

「勝手に、死ぬ…なよ、ッ、こんなところで、死なれて、たまるか…お前は、俺にとって、光、ッ、は…なんだよ、ぐっ、はあぁ…っ、」

流石…高校の頃は、ボクシング部だったらしいが、まさか僕よりも小柄なのに、引き上げるとは、彼の馬鹿力に驚き、ふつふつと笑いが込み上げてくると同時にぽつりと涙が落ちる。

僕が、先輩にとっての光?冗談よしてくれ。
でも…

「ははっ、ふは、…先輩の、せいで死ぬ気なくなっちゃったじゃ、ないですか……」

怖い。
死ぬのは、…すごく怖い。
力が抜け、地べたに座り込むと自分の身体を抱える。
抱えながらも彼の顔をまっすぐ見据える。

彼が僕を光と言うのならば彼もまた、僕の深い深い闇に差し込んだ一筋の光だと言える。

だから……、

「……先輩が、僕の光になったんだ。責任、とってよね?」

そう言って、彼の手を掴むと…手のひらにキスを落とした。

11/5/2024, 11:49:38 AM