雪の降る夜。
教室のベランダには彼と二人きり。
彼は窓際に寄って、空を眺めている。
嗚呼…この時間が永遠に続けばいいのに。
「 雪…綺麗ですね。 」
私はそう言うけど、彼は何も言わない。
ただ黙って空を眺めている。
そんな彼を見つつ、私は静かに彼の隣に立った。
「 …先生。私は貴方を愛していました。 」
私の言葉を、彼は黙って聞いている。
「 どんな時も傍にいると。
貴方に命の危機があれば、自分の命に変えてでも助けると。
自分自身に誓っていました。
…実際それは叶えることが出来ました。 」
彼の目から一粒の涙が、流れ落ちた。
「 それだけで私は幸せなんです。
貴方を助けられた。貴方の生きる時間を奪わずに済んだ。
その事実が、とても嬉しいんですよ。 」
彼の口が開かれる。
泣いているせいか、熱っぽい吐息が出た。
「 馬鹿ですね。 」
彼は私に言葉を紡いだ。
私も彼に言葉を紡ぐ。
「 第一声がそれですか。 」
「 ほんと、馬鹿です。 」
「 酷いですね。生徒に馬鹿だなんて。 」
「 こうでも言っていないと… 」
「 堪えられない。なんて、先生らしくないですよ。 」
「 貴女がいない世界なんて… 」
「 …先生。 」
「 耐えられない。 」
遂に彼は嗚咽を漏らして泣き出した。
私は彼の背を優しく摩る。
「 生きてくださいよ。私のために。」
「 …っ… 」
「 先生を生かすために…私は今ここにいるんです。 」
私の言葉が聞こえたのかどうかは分からないが、
彼は微かに頷いた。
そして
「 …ありがとう。 」
それだけ呟くと、私の体をすり抜けて、
彼は室内に戻って行った。
永遠。
それは私が彼に望んでいたこと。
だが、それと同時に彼も私に望んでいたのだろう。
彼はそれを私が死んだ後に気がつくなんて。
「 …貴方も相当な馬鹿ですね。 」
何故かとても涙が止まらなかった。
自分の流した涙が、雪になって地面に降り積もる。
明日も、また寒くなりそうだ。
〈 お題 〉
永遠
11/2/2022, 9:07:54 AM