そらまめ

Open App

「君に会いたくて」

私の親友のマリコは、いわゆる“ロリータ系”だ。いつもまるでフランス人形のような格好をしている。髪の毛は金髪縦ロールだし瞳は青色。外見だけでなく仕草や行動も上品で、前世はフランスの貴族だったんじゃないかと思うくらい。遊びに行く時はもちろん、学校に行く時もコンビニに行く時も焼肉を食べる時も、フリルとリボンでいっぱいの服を着ている。ちょっと変わっているけれど、穏やかで優しいマリコのことが私は大好き。
そんな私とマリコの通う高校で文化祭が行われることになった。私たちのクラスの出し物は王道にメイドカフェ。今日ばかりはマリコもロリータ服では無く、白と黒のメイド服を着ている。とっても似合っていて可愛いんだけど、マリコは少し寂しそう……というより不安そうに見える。
「マリコ大丈夫?緊張してるの?」
心配になって尋ねてみると、マリコは上品に微笑む。
「いいえ、平気よ。……ちょっと落ち着かないだけ」
やっぱりフランス人形みたいな格好じゃないと安心出来ないのかな。
少し心配だけど、文化祭が始まると意外と忙しくて、マリコのことを気にかける暇がない。
「おかえりなさい、ご主人様!」
「ご注文は決まりましたか?」
「いってらっしゃいませ!」
小っ恥ずかしいセリフを繰り返すうちに何も感じなくなってきたとき、他校の男子生徒三人組がやってきた。そのうちの一人は背が高く、茶色い髪に青みがかった瞳のハーフっぽい上品なイケメンだ。女子達はすこしざわざわして、誰がイケメンの接客に行くかジャンケンを始める。ジャンケンはだいぶ長引いて三人組の居心地が悪そうなので、もう私たちが行っちゃおうか?と誘おうとマリコを見て驚く。マリコは石のように固まって、茶髪のイケメンをじっと凝視していたのだ。青い瞳はあらん限りに見開かれ、本当の人形のように見えて少し怖い。
「ま、マリコ?」
おそるおそる声をかけると、マリコは私の腕を痛いほどに掴んだ。
「お願い、彼を帰さないでっ……!」
掠れた声で言い残し、必死の形相で教室を飛び出す。
何が何だか分からないが、マリコが真剣なのは分かったので、ほとんど反射的にイケメンに話しかける。
「あっ、あの〜、ご注文はお決まりですか?」
とりあえず注文をとる。ジャンケンをしていた女子たちの視線が痛いけどしょうがない。親友の為だ。

マリコは随分帰ってこなかった。三人組がもともと大した量じゃないワッフルを食べ終わっても、まだ帰ってこない。なんとか引き留めようと必死で話題を探している時。
「ルイ!」
マリコの声。なんとか間に合ったようだ。マリコはメイド服ではなくいつものロリータ服を着ていた。急いでいたのだろう。リボンは曲がって、スカートはくしゃくしゃ。しかしそんなことは気にせず、イケメン――ルイって言うのか?――に向かって一直線にかけてくる。
「ルイなんでしょう?私、マリアよ。覚えている?」
今にも泣き出しそうな、張り詰めた表情で尋ねる。
ルイは一瞬訳の分からなそうな顔をしたが、すぐにはっとした。
「本当に?マリアなの?」
マリコは本当に、本当に嬉しそうに頷く。
「あのね、ずっとずっと言いたかったの」

―――私も愛しているわ、ルイ

きゃあっ、と女子の一人が小さな悲鳴をあげる。なにこれあまりにドラマチック。
しかし二人はもうお互い以外なにも見えていないようだった。心の底から幸せそうに見つめ合う。まるで500年ぶりに出会えた恋人同士のように。
二人の姿に、中世ヨーロッパの街並みに佇む貴族の恋人のイメージが重なる。
もしかして、マリコは本当に前世がフランス貴族なのかもしれない。なんてね。

1/19/2023, 12:46:52 PM