宇宙人に囲まれて育ったから、自分が人間だと知らなかった。
私の他にも人間がいるなんて知らなかった。
あなたは人間。
地球には人間がたくさんいる。
地球に逃がしてあげようか?
そんなことを言われても、私は人間を知らない。
宇宙人として生きてきた。
確かに私は、この宇宙では浮いていた。
けれどそれでも、私は彼等を仲間だと思ってきた。
そのために、息苦しいのも耐えてきた。
逃げたい。
何度もそう思った。
本当は、沢山勉強して、地球という存在も知っている。
人間がどういうものかも知っている。
人間は争いを繰り返してきた生き物。
間違いを犯す生き物。
何度取り返しのつかないことをしても、また同じ過ちを繰り返す。
間違いに気づいて正そうとした良心を、異端と捉えて殺す生き物。
私は恐ろしくなる。
私は知っている。
地球に降りたら、私はきっと殺される。
奇跡が起きて、受け入れられたとしても。
私は争う人間を嫌悪する。
彼等は考える脳みそを持ちながら、考えることを放棄した。
私の言葉が彼等に届くはずも無い。
それならばまだ、長い年月をかけてようやく心を通じ合わせることが出来た宇宙人達と共にいたい。
けれど彼等は首を振った。
我々は確かに心を通じあわせたけれど、だからこそもう、一緒には居られないのだと。
宇宙人達は言った。
私の遠い、記憶の話。
私は地球にいた孤児だった。
私はとある人に拾われた。
私は心を閉ざしていたが、その人は優しく、暖かく、私を守ってくれた。
私が心を開きかけた時、あの人は理不尽に殺された。
その時私も一緒に死んで、その時に魂が宇宙に放り出された。
私は再び地球に生まれたくなかった。
けれど、私が心を開いたあの人は、またあの地獄のような地球に生を受けていた。
あの人ともう一度会いたくないか?
私は記憶が薄れる前は、あの人に会いたいと泣いていたという。
私はまだ思い出せない。
その人の姿形、声も匂いも。
けれど、確かに、後悔だけは覚えている。
私は、あの人に、ありがとうを言えなかった。
ああ、わたしは。
地球に帰らないといけない。
宇宙の家族は、私を初めて抱きしめてくれた。
冷たい体だった。
私はずっと、温もりが欲しかった。
地球に生を受ける時は、なにも覚えておくことはできない。
私は恐れる。
きっと、何度も過ちを犯すだろう。
大切なものを思い出せないまま。
いいえ。あなたは肝心なことは決して忘れなかった。
宇宙人は言った。
あなたは、自分の無力さを知っていた。
だからこの宇宙で知識を集めた。
地球で同じ過ちを繰り返さないために。
だから、大丈夫。
自分のやるべきだと思うことに従いなさい。
勘違いして迷うこともあるでしょう。
けれどあなたは、愚かな人間ではない。
失敗を反省して、次に活かせる。
そうしてあなたは、己の願いにたどり着くでしょう。
5/22/2024, 8:09:42 PM