"通り雨"
「うわ…」
用事を済ませた帰り道、急に雲行きが怪しくなり近くの店の屋根の下に行くと同時に雨が降り出した。
「雨降るなんて聞いてねぇぞ…」
スマホを取り出して天気アプリを開き、雨雲レーダーを見る。雨雲はそんなに大きくなく、少し待っていれば雨が止むだろう。
──さて、どうするか…。このまま止むのを待つか、店に入って時間を潰しながら待つか…。
うーん、と少し考えていると、優しく柔らかな雨音が鼓膜を揺らした。
──まるで歌ってるみたい。
パラパラとリズミカルに落ちる雨音に、ふいに鼻歌が出る。
「フ〜フフ〜フフ〜フ〜フ〜…♪」
パラパラと降り続ける雨とのセッションに体が揺れそうになるが、人の目があるので抑える。
──まさか、雨を《楽しい》と思う日が来ようとは…。けど…いいな、こういうの。
そう思いながら鼻歌を口ずさんでいると、いつの間にか雨音がしなくなり空を見上げると、洗いたてのように澄み切った青い空が広がっていた。大きく深呼吸すると、洗いたての空気が鼻腔を通る。
「…気持ちいい」
そう言うと足を踏み出し、再び帰路に着く。その足取りは心做しか、とても軽かった。
9/27/2023, 11:01:49 AM