忘れられない日、人生で初めて別れを経験したあの日。棺の中の彼女は美しかった。苦しむような最期ではなかったとはいえ、長い入院生活で痩せ衰えてしまっていたのに。そんな彼女を彩るがごとく花を添えた。一輪一輪丁寧に。棺の蓋が再び閉じられる。
そして、彼女は霊柩車に乗り込んだ。私も助手席に乗り込んだ。一秒でも長く彼女のそばにいることができるように。私たちを乗せた車が動き出した。ゆっくりと、しかし確実に終わりへと進んでいく。そんな中、ふと空を見上げたら灰色の雲が立ち込め始めていた。看板が見えた。いよいよ最後の曲がり角のようだ。止まってほしいと願いながらも、それは不可能だと冷静に指摘する私もどこかにいた。
沈黙の中、わずかに流れる音色に一つの雑音が交ざった。雨だ。一つ、二つとしずくが落ちてくるだけだったのが、瞬く間に土砂降りになった。気が付けば私も涙を流していた。別に泣かないことがどうとか思っていたわけではない。お別れは済ませた、そう言い聞かせていただけだった。だから空よありがとう。私の本心を思い出させてくれて。そしてともに涙を流してくれて。
9/16/2024, 4:52:17 PM