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 みんなの手の器には、たくさんのキラキラがある。
 山盛りでこぼれ落ちている子もいれば、ちょうど満たされている子もいる。みんな手の中のキラキラを眺めては、笑っている。星を見せ合いっこして、笑い合っている。
 僕のキラキラは三つ。とても小さくて、じっと見つめないとわからない。指でつまんで覗き込んでも、何も見えてこない。
 みんなはこのキラキラの何に笑っているのだろう。

「ふーん。君、それしかないんだ。可哀想」

 後ろを振り返ると、男の子がいた。いかにも頭の良さそうな出立ちだ。彼のキラキラは両手の器にいっぱい入っていた。

「なんで可哀想なの?」
「君、そんなことも知らないのかよ」

 男の子は僕を鼻で笑って、こう言った。

「この手の中の星は、楽しかった想い出が一つ一つ入ってるんだ。たくさん持っている奴は、それだけ楽しかった想い出がいっぱいあったってことだし、一つ一つ大きい奴はよほど大切な想い出だったってことだろ?」

 だから逆の君は。
 男の子はそこで口を結んで去っていった。僕の目から大きな涙の粒が溢れ出ていたからだ。
 あの男の子の言葉が頭の中で繰り返される。そうして改めて、手の器の中を見た。小さなキラキラ--星が三つ、余裕で片手に収まっている。

 星が小さなことは可哀想なこと。星の数が少ないのも可哀想なこと。この星が何の想い出かすら思い出せない僕は、可哀想ってことなのか。

 流れる涙が止まらない。必死に指で拭っているとハンカチが差し出された。薄いピンク色で角にピンクのリボンが刺繍されている。僕は恐る恐る顔を上げると、僕よりお姉さんの女の子が立っていた。

「使って」

 女の子は僕の顔にハンカチを押し当てた。ありがたく受け取って涙を拭いていると、女の子は僕の隣に座った。

「何で泣いてたの?」

 女の子は僕に聞いていた。あまりの真っ直ぐな問いかけに、僕は言葉を詰まらせた。
 何も喋らない僕に、女の子は首を傾げた。そして、目線は僕の手に。

「あっ」

 視線に気がついた僕は思わず声を上げた。さっきの男の子の言葉が頭に思い浮かぶ。今度は何言われるかわからない。
 僕が目をぎゅっと閉じたのと、女の子が喋り出したのは同時だった。

「いいな。うんと小さい頃の想い出が残ってる」

 僕はそっと目を開いた。女の子はこちらを見て微笑んでいた。

「でも、可哀想って」
「可哀想? どうして」
「星が小さいのも、少ないのも、可哀想って」

 だんだんと声が小さくなる僕の言葉に、女の子はしっかり耳を傾けてくれていた。女の子はこう切り出した。

「この小さな星はね、私たちは覚えてないし思い出せないの」
「なんで?」
「本当にうんと小さい頃の想い出だから」

 僕は女の子の言葉に肩を落とした。でも女の子の言葉は続いていた。

「私たちがね、この小さな星の想い出を知るには、パパとママに見せるといいんだよ」
「パパとママ?」
「私、もうその小さな星はどこか行っちゃったんだけど、まだ持ってた時にパパとママに見せたことあるよ。パパもママも、とっても懐かしそうにしてた」

 だからこれは、君と、君のパパとママとの想い出なんだよ。

 僕はスッと心が晴れた気がした。

「いいなぁ。普通は一人一個あるかないかなんだよ。君は三個もある。いいなぁ」
「でも君みたいに、大きい星はないよ」

 羨ましそうにこちらを見る女の子へ咄嗟に返事した。女の子は目を丸くして、すぐに口を尖らせた。

「大きい星はね、これからいくらでも、たくさんできるんだから。君の嬉しかったこと、楽しかったこと。これから生まれるたくさんの想い出を君は全部手の器に入れることができるんだよ。入れホーダイじゃん、ズルい」

 ぶすくれた女の子に、僕は思わず笑ってしまった。
 

『たくさんの想い出』

11/19/2024, 1:14:50 AM