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こぼれたアイスクリーム

「ねー、きいてる?」

そう言って目の前に座る友だちは、今日あった小テストのこと、昨日見たドラマの話、最近読んで面白かった漫画の話、共通の友達の恋バナ、とにかく色々話してくる。
そんなに話して喉は乾かないのかな、と数分前に友達が飲み干した空のコップを見ながら思う。

「〜〜……って、あ、ドリンク入れてくるけど」
「あ、私は大丈夫だよ」
「そ、じゃあ行ってくる」

話しながら飲み物を飲もうとしたのだろう。溶けた氷の薄い残骸しかないのに気付いた友だちは立ち上がってドリンクバーに向かう。
この席からドリンクバーまでは離れているから、戻ってくるまで少し時間はあるはず。
友達の姿が見えなくなってから小さくため息を吐いた。

「つかれたぁ……」

人の話を聞くのが嫌いな訳でも、友だちが嫌いなわけでもないが、それはそれこれはこれだ。
なんでそんな思いをしてまでまだここにいるかといえば……

お待たせしました、

そんな風に誰に言うでもなく脳内で架空の誰かに話しかけてたら、店員さんが近づいてくる。
私の目の前に置かれたのは、日替わりランチについてきた食後のデザート。何種類かあるうちから選んだのは、季節のアイス。

このお店の日替わりランチについてくる季節のアイスは、定番のバニラと季節のソルベがついてくる人気のデザートだ。
季節のソルベは、聞けば味を教えてくれるが、私はあえてきかずにいたのだ。

緑なら抹茶?

でも、色は白っぽい気がする。

今日のは何かなー?楽しみだなー、とワクワクしながらスプーンを入れようとしたとき。

「ただいまー」

「あ、おかえり」

友だちが帰ってきた。
スプーンを置く。

「アイス、何味だった?」
「んー、多分桃?」
「多分ってなにさ〜。あ、さっきの続きなんだけど」

友だちの話を聞く。
人の話を聞くときに何かを食べるのが出来なかった。
日替わりランチは友だちの話の合間合間で食べた。

アイス…楽しみにしてたんだけどなぁ…

目の前には溶け始めたアイス。
話し続ける友だち。

「〜〜〜………」


バニラの隣に置かれた白っぽいアイスは味を知らないまま、こぼれた。

8/11/2025, 4:58:30 PM