気づいたら、トラックに轢かれそうになっていた。
最愛のあの人からもらった麦わら帽子。
赤いリボンの装飾が巻かれていて、
最近暑いね。と言い合っていた夏の日にさり気なくプレゼントしてくれた宝物。
『似合ってる。』
って少し頬を染めながら言ってくれたっけ。
でも、。
あの人はもう居ない。
あの日は強風注意報が発令されていた。
彼は飛ばされた麦わら帽子を拾おうとしてトラックに轢かれそうになった私の身代わりとなってしまったのだ。
沢山、たくさん恨んだ。
トラックの運転手を。
風が強い日なんかに麦わら帽子を被って出かけた私を。
私なんかの身代わりに…なることを…選んだあの人を…。
彼を…恨んじゃいけない。
私を助けてくれたのだから。
でもやっぱり。。
「なんで…なんで…また置いて逝っちゃったの…?」
掠れた声でそう呟く。
そういえば、
『君の声は澄んでいて綺麗だね。』
と言ってくれたっけ。
もう、ちゃんと声を出すことも出来ない。
嗚呼、もし。もし、あの時こうしていたら。
無駄だと分かっていても、そう考えることを辞められない。
だって。だって!
「彼をまた…助けられなかったんだから…」
そこで意識が途切れた。
目が覚めた時、私は…
2023.8/11 麦わら帽子
8/11/2023, 2:12:32 PM