前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこかの世界に、
全部の途上世界を先進技術で発展させて、全部の滅んだ世界の難民に新しい世界を用意しようとする「世界多様性機構」なる組織と、
そういう過度な技術的侵略、過剰な難民流入「も」取り締まっている「世界線管理局」なる組織が、
それぞれ存在しまして、
機構の方が一方的に、管理局を敵視していました。
というのも「すべての世界を平等に」をモットーに掲げる機構の、やること為すこと全部が「違法」。
滅びそうな世界の生存者を、別の世界へ連れていくのは「密航」にあたるし、
「こっち」の地球が存在する世界のような途上世界に先進世界の技術を普及するのは「密輸」です。
「それ」で誰かが助かるのに、
管理局の連中は「それ」を取り締まるのです。
何故でしょう?
その世界が「その世界」として在るためです。
何故でしょう?
その世界の「その世界」を塗り潰さないためです。
『別の世界に「その世界」で起きている問題の解決策が存在するのに、管理局はどうして「それ」を許さず、取り締まるのかしら』
機構の新人「アテビ」は、気になって気になって、
理由を知るために、管理局に忍び込んだのですが、
そうです、前回投稿分で、潜入がバレたのです。
「逃げなきゃ、逃げなきゃ!」
管理局の法務部に捕まらないように、機構の新人のアテビ、必死になって走りました。
「逃げて、隠れなきゃ!」
だって、自分は機構の職員です。
捕まったら、きっと酷いことをされるのです。
「大丈夫だよ、話せば分かるよ!」
道案内用に一緒に来てもらった女性、高葉井がアテビに言います。けれど、アテビは女性の手を引き、
ともかく、遠くへ、遠くへ。
「ねぇ、管理局のこと、知りたいんでしょ!
そう言いなよ、きっと、分かってくれるよ!」
「高葉井さんは知らないんです、管理局は、とっても恐ろしいところなんです」
「その管理局が、どうしてアテビさんの言う『密航』と『密輸』を取り締まるのか、知りたいんでしょ。逃げてばっかりじゃ何も、」
「だって、捕まったら……!」
管理局に捕まったら、絶対、ぜったい、
機構の自分は、捕まって、拷問を受けるから。
言おうとしたアテビが、口を開いたその時です!
「高葉井ちゃーん、こっち、こっちぃ〜」
おっとりした女性の声が、もちろんそれも、アテビが怖がる管理局員のものでしたが、
逃げるアテビと高葉井を、両開きのドアの向こうから、手招いて、呼んだのでした。
「だいじょーぶ、信じて〜、
あたし、取って食べたりしないからぁ」
「行こう、アテビさん!」
「ダメ、だめです、高葉井さん……!」
ここでようやく、お題回収。
「世界線管理局」なる組織を敵視している「世界多様性機構」のアテビは、
敵視している組織の行動理由を知るために、
まさしく、それをイチバンよく知る者の部屋へ、
東京都民、高葉井とともに、飛び込みました。
さぁ、「まだ見ぬ世界へ!」
「ヒクイドリさん、ヒクイドリ図書室長さ〜ん、
世界多様性機構のアテビさんとぉ、『東京』の高葉井ちゃん、連れてきたよー。
これから勝手に、室内案内するからぁ、見張り、よろしくお願いしまーす」
アテビと高葉井が管理局員に招かれて飛び込んだのは、規格外に大きな図書室。
大量の本がところ狭しと並べられ、
あっちでぴょこぴょこ、そっちでぴょこぴょこ、
魔法のカピバラや機械仕掛けのハタネズミ、宝石でできた木ネズミ等々が、
パタパタ羽ぼうきを使って、掃除をしています。
「収蔵部収蔵課の、ドワーフホトと申しまぁす」
アテビと高葉井を引き入れた管理局員は、名刺をふたりに手渡しして、言いました。
「世界多様性機構のアテビさんと、『東京』在住の、高葉井ちゃんだよね、
図書室長のヒクイドリさんが見張ってくれてるからぁ、もう大丈夫だよぉ。
ようこそ、まだ見ぬ世界へ〜!」
さぁさぁ、あなたの疑問に答えましょう、
さぁさぁ、管理局のモットーを答えましょう。
ドワーフホトは部外者の2人を、
図書室の奥深くへ、案内しました。
「あのねぇ、滅んだ世界の生存者を、全員他の世界に何度も何度も、ずーっと輸送し続けてるとぉ、
かならず、ぜーったい、どこかで『生きてたハズのその世界』が、他の世界の生存者で、パンパンになっちゃうんだぁ」
ドワーフホトが言いました。
それはまさしく、アテビが管理局に忍び込んででも、知りたかった疑問の答えの、ひとつでした。
「あたしたち管理局は、そうならないように、他の滅んだ世界からの密航者を取り締まってるのー。
滅んだ世界の生存者を、見捨てるのかって言われることもあるけどー……
『その世界』が、大勢の『別の世界』のひとに、食いつぶされちゃうのは、違う気がするんだぁ……」
6/28/2025, 9:58:45 AM