白樺

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 この部屋は狭い。けれど落ち着く部屋であった。
 昔からよく猫みたいな奴だと言われ育ってきた。狭いところは好きだし、好物は魚。気分屋でゆらゆら生きている。猫みたいな人間。
 別にこの評価が嫌いな訳ではない。むしろ気に入っている。だって根無し草と言われるより、猫と言われたほうが誰だって良いはずだから。
 自分が大学生になったとき、一人暮らしをしようと決意した。
 大学は実家からでも通える距離ではあったが、いかせん自由ではない。自分という人間は明日のご飯が決まっているような人生が嫌いなのだ。つまり強欲であった。
 一人暮らしをするために借りた部屋は狭い部屋であった。四畳半しかなく古くて虫がよく出たりするせいか、家賃が何処よりも安かったのを覚えている。
 この四畳半の部屋とともに大学生活を過ごした。終わらないレポート、単位取得のために必死になったときもこの部屋には世話になった。
 正直、自分のような人間が大学進学を目指したのは間違いであったのではないだろうかと考えていたが、今は後悔はしていない。
 社会人となりあの部屋を出て数年、老朽化が原因となり取り壊しになったと聞いたとき。
 今の部屋は広い。それは当時借りていた部屋と比べるからしょうがないのだが、もうあの安心感と思い出を得られないと思うと、少しだけ戻りたいという気持ちがでてきてしまった。

6/4/2024, 10:18:38 AM