“この俗世から逃げませんか?”
画面いっぱいに広がり、青い青い光と共にそんな謳い文句が瞳に突き刺す。
ただの広告だと普段ならスルーするだろうが、何故か毒々しく色鮮やかな文字の羅列と優しげなフリーイラストのギャップにやられたのか、URLに指先が触れてしまった。
“逃げてしまいたい。そう思ったこと、人間誰しもあると思います。でも、逃げることは通常許されません。逃げれば周りから指を刺されます。失望の念を抱かれます。”
“おかしいと思いませんか?
時には逃げることも大事です。だから逃げるとは必ずしも敗北ではないのです。”
とても甘美な囁きだと思った。
普段から優秀だと周りに褒められるも、全て親の圧によって動いている。この状態がいつ崩れてもおかしくは無い。
どうして自分の好きなようには出来ないのだろう。このまま俺は親の言う通りに、親の操り人形に、親の第二の人生を歩むのか?嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
自由を自由を少しばかりの自由を。
自由を!
“あなたも自由の魔法にかかりませんか?”
ささやかな反抗心と希望を抱いて、「購入」をタップした。
体が吹っ飛ぶような感覚。学校へ行くまでの重たかった足が羽根のように軽い。なんとも言えぬ多幸感。ああこれが魔法か。なんて、なんて素晴らしい!
「速報です。近年SNSを利用した悪質な薬物の売買が若者を中心に広がっています。特に、魔法と謳うこちらの薬物は依存性が極めて高く___。」
2025/02/23 #魔法
2/23/2025, 10:34:45 AM