《神様だけが知っている》
時は大詰めを迎えた。
追う形になっていた私は苦労して策を弄し、ここに来てもう手を伸ばせば敵の背を掴める所まで追い付いた。
さあ、あともう少し。
賽は投げられた。結果は、神様だけが知っている。
「まずいぞ、これ追い付かれるんじゃねぇか?」
「畜生、逃げ切れると思ったのに…。」
ふふ。ここが勝負どころ。
本気で行くからね!
気合を入れて、私は右手を振り翳した。
「5か6!5か6来て!!」
放たれた賽は、たくさんのマスが描かれた盤上をころころと転がる。
私は彼の外交に伴って訪れた国の城で、休憩中の近衛兵達とボードゲームをしていた。
ゲーム中の所持金とゴールの順位を合わせて競うボードゲームで、勝てば高級チーズをゲット出来る。
所持金は貯めた。あとは1位でゴールすれば完全に私の勝ち。
「来るな!来るんじゃねぇ!」
「1だ!1出ろ!!」
一緒に遊んでる兵士達もヒートアップしてる。
ここの国王様は勇猛かつ温和な賢王で知られているけれど、それでも兵士の仕事はストレスが溜まるらしく、外交をする彼に帯同したとは言え何もする事のない私は時間潰しとちょっとした交流を兼ねて兵士達のストレス解消に付き合っていた。
普段とは違う相手とボードゲームがしたいというのは物凄くよく分かる。相手によって盛り上がりの反応とか違うもんね。
賽は動きを緩め、一点でくるくる回り始める。
これもしかして5か6出るんじゃない?
「やった!上がれそう!!」
私は嬉しい興奮で大はしゃぎ。
片や相手の兵士達は敗北が濃厚になり、野太い悲鳴を上げる。
賽が止まりそうになり、場が最高潮に盛り上がったその時。
バン!!!!と大きな音を立てて詰め所の扉が開かれた。
そこにいたのは、和やかな笑顔で私達を見る国王様と、切羽詰まった怒り顔で肩を震わせている彼だった。
「何をしているのですか貴方達はーーーー!!!!」
彼はそう叫ぶや室内に乗り込んできて、ボードゲームの盤を回る賽ごと放るようにひっくり返した。
「「「あああああああああ!!!!」」」
ええええ!勝ちそうだったのにーー!!
勝敗は、まさかの勝負付かず。
勝負の女神様もこんな結果になるとは思わなかっただろうな。
「まあ良いではないか。兵士達の憂さを晴らすのに協力してくれたのだろう?」
穏やかなお声で国王様は仰ってくださったけれど。
「陛下、そういう問題ではございませんので。」
彼はバッサリと斬って捨てた。二国の仲良きことは美しき哉。
ああ、チーズ食べたかったな…。
「いいですか?貴女はあちこち出歩き過ぎないように。慣れぬ土地なんですから。
ましてや兵士の詰め所など、女性兵士がいるとは限らないんですからホイホイ入って行くとは何事ですか。」
その後客室に引き戻された私は、彼からこってりお説教をされる羽目になりました。
7/4/2024, 10:35:19 PM