シオン

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 胸がいつもより大きな音を立てて脈を打っていた。なぜかなんで問われれば、それはもう一目瞭然で。権力者が、僕にもたれかかって眠っていたからである。
 出会った当初であればこんなことは、絶対にありえなかっただろう。僕と彼女は敵対していて、そもそもそんなに距離感が近くなくて、そもそも僕は彼女に対して、胸の鼓動が早くなったりすることもなかったであろう。
 でも、今は彼女のことが好きだと気づいてしまったから、胸の鼓動はこんなに早くなってしまった。僕にもたれかかって安心しきった寝顔を見せている彼女に敵対心ではなく、恋愛の感情を抱いてしまっている。
 だがそんな自分を恥じたり、改めようという気はしない。むしろ、彼女に惚れてしまったからにはどうやって彼女を僕に惚れさせるか、そういう思考回路の方が回るものであった、一人でいる時になれば。
 だけどいざ、彼女とコミュニケーションを取ろうとしたり、今みたいに接近したりすると、突然言葉がスラスラと出てこなくなり、一人でシミュレーションしていたはずのやり取りを上手く自分で引き出せなかったりするのだ。
 まぁでもそれこそが、恋愛だろう。思った通りにはうまくいかないということが少し楽しく感じられて、でもそう思えるのも一人でいる時だけで、そんな曖昧な気持ちを感じながら、今はただ彼女が隣で安心しきっているのを見つめることしかできなかった。

9/8/2024, 3:13:46 PM