昨日のテーマ、相合傘です。
あなたがいたから。は、次のテーマと一緒に書けたらいいなと思います。
「相合傘」
「やっと終わった~」
パタンとノートパソコンを閉じ、デスク周りを片付ける。明日までに提出する企画書が書き終わらず、課に残って仕上げていたのだ。
「うわっ、もうこんな時間か。どうりで腹減るはずだよなぁ。…ま、終わったからいっか」
イスに腰掛けたまま、うーんと伸びをして立ち上がる。
「お疲れさまでした」
課内で残っているのは俺一人。フロアの電気を消すと、課を後にした。
「あれ?雨降ってる」
エントランスに降り、外に出ると、仕事をしているときには気づかなかったが、雨がポツポツと降っている。
「課を出るときに気づけばなぁ」
俺はため息を一つ吐くと、課まで置き傘を取りに戻った。
「面倒臭かったけど、置き傘取りに戻って良かった」
先程まではポツポツだった雨が、サーっと降り方を変える。向かっている駅まではもう少し距離があり、傘なしだったら、結構濡れていただろう。
「あれ?」
駅まではあと10分程。というところで、コンビニに佇んでいる見知った顔を見つける。
「お疲れさま。どうしたの?」
佇んでいたのは、同じ課にいる気になっている女性で。
「お疲れさまです。残業ですか?」
「うん、そう。企画書が終わらなくて」
ハハハ。と笑えば
「遅くまでお疲れさまでした」
労いの言葉をくれる。
「それで、どうしたの?」
もう一度聞いてみると
「帰りに買い物に寄ったんですが、店を出て少ししたら雨が降ってきまして。ここで買おうと思ったら売り切れで」
困っているようだ。
「俺、駅に行くんだけど、そこまでで良ければ入る?」
傘を彼女の方に向けると
「え、でも…」
戸惑っている様子。
「雨、止みそうにないし、ずっとここにいるわけにもいかないでしょ?歩いてずぶ濡れになるよりはマシだと思うから、嫌じゃなければ」
ね。と、笑顔を向けると
「すみません。お言葉に甘えて、お邪魔します」
おずおずと、彼女が傘の中に入って来る。
「濡れないように、俺の方に寄ってね。じゃ、行こうか」
「お願いします」
彼女の方に傘を少し傾け、ゆっくりと歩き出す。思わぬ形で彼女と二人きり。ドキドキしながらも、彼女にもっと近づくチャンスだと、彼女の方をチラリと見ると、彼女はそっぽを向いている。
「もしかして、俺とじゃイヤだったのかな」
と顔をしかめそうになったとき、揺れる髪の間から見えた耳が、赤くなっていることに気付く。
「…相合傘が、恥ずかしいのかも」
そう思い、嬉しくなった俺は、駅に着くまでの間、彼女に気に入ってもらえるように、いろいろと話そうと話しかけたのだった。
6/21/2023, 9:55:24 AM