かたいなか

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職場に新しい子が6人くらい、正規枠で入ってきた。
支店2人くらいに本店4人。ウチの部署への新規採用はゼロ。入ったところで、新人いびりが大好きなオツボネ様、尾壺根係長に遊ばれて潰されて1年経たずに辞めるんだから、逆に良かったかもしれない。

「新人ちゃんたち。何人残るかな」
昼休憩。休憩室での先輩とのランチトークは、当然新採用の約6人の話から始まった。
私達の職場は、ブラックに限りなく近いグレーだ。たくさん採用して、たくさん辞めて、その分たくさん補充する。だから年度末のご新規さんも、あんまり珍しくはないけど、話のネタには丁度良かった。

「ゼロだろうさ」
淡々々。先輩はスープジャーの、味噌汁の中のじゃがいもを突っついて、答えた。
非正規を経ず、正規枠で初手からデカいノルマを割り当てられ、売るあても無くて泣く泣く自腹で、結局短期で折れるだろうと。
まぁ分かる(社会ってキビシイ)

「じゃあ4月からの、ちゃんとした新しい子は?」
「新卒の非正規スタートが多数だろうから、夢が醒めるまで、じっくりじわじわ1人ずつ、じゃないか」
「夢?」
「新しい世界。初めてのバイト以外の仕事。優しくしてくれる上司に先輩。悪いところが見えないから全部輝いて映る。夢から醒めれば、現実が容赦なく」
「あー。はい」

夢から醒めれば、現実が容赦なく顔を出して、オハヨウサン。悪いものが全部、ハッキリ見えてくる。
学校みたいにゴールがあるわけでもなく、正解が決められてるわけでもなく、上司の指示は二転三転するし「ちょっとずつ仕事覚えれば良いよ」は建前で、最初から完璧が求められる。そんな社会。
欠陥品はさようなら。職場は人材を毎回毎回新しく生えてくる髪の毛くらいにしか思ってない。
そのまま抜けてハゲれば良いよ(現実ってキビシイ)

「夢が醒める前までは、適温のぬるま湯なんだがな」
ああ。理不尽理不尽。世は斯くの如し、生きづらい。
自嘲気味に笑ってじゃがいもを食べる先輩に、
「意外と醒める前に誰と会うかで、保温可能説」
珍しく返せる言葉を閃いたので、
「ブラックじゃん。夢が醒めて現実コンニチハじゃん。優しいひとが支えてくれれば優勝じゃん。そのひとに、夢が醒める前に、出会えるかどうかで云々説」
先輩を、じーっと見ながら言ってみると、
「その支えてくれた相手が、裏でヒソヒソ陰口で支援爆撃、までがテンプレートだ」
目と唇を更に自嘲で染めて、先輩が、またじゃがいもを突っついた。

「先輩裏垢でディスってるの?」
「何故私の話になる。私に呟きのアカウントは無い」
「ディスってるの?」
「ない。確かに私も捻くれちゃいるが、性根腐った人でなしではないつもりだぞ」

「なら大丈夫」
「は……?」

3/21/2023, 3:30:56 AM