自分のように身寄りをなくしてしまった未成年たちを引き取って、朝から晩まで面倒を見てくれている「お母さん」。
みんなにとって、あの人の笑顔はなによりの安心感を与えてくれる一番の薬。
でもいつからか、自分から見るあの人の笑顔は一抹の不安を与える毒薬になっていた。
どうして自分一人だけ? そういえばあの人からは得体の知れない気持ち悪さを早くに感じていた。赤の他人を無条件で引き取ってくれただけでもありがたいのに分け隔てなく優しくて、威圧的になることも変に遜ることもなく対等に見てくれて、非難するところなんてひとつもないはずなのに。
今まで人の好意に裏切られてばかりだったせいかもしれない。そう考えても、納得できなかった。
「なにヘンなこと言ってるの! 院長先生すっごく素敵な人じゃない」
「僕はそんなふうに思ったこと全然ないなぁ……気のせいじゃない?」
改めて訊いてみても答えは変わらない。そう思いたい、思いたいのにやっぱり、確かな警告音が頭のどこかで鳴っている。
「ねえ、ちょっといいかしら? あなたにぜひ見せたいものがあるの」
皺の刻まれた、いつもの柔らかな笑顔。
なぜだろう、その皺の数が少ないように見えたのは。
自然と後ずさりしてしまったのは。
お題:安心と不安
1/25/2023, 2:02:09 PM