とある恋人たちの日常。

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 今日は観光地になった秋の風物詩を見に来た。
 広大な土地にゆらゆらと動く、すすきの群生。その銀の穂は、太陽の光を浴びて金色に見える。
 
「綺麗ですねえ」
「そうだねぇ」
 
 近くまで行こうかなと思ったけれど、想像しているより広過ぎるわ、葉が鋭そうだわと思ってやめておいた。
 
 勇敢な観光客は、中に入って行っていた。背の高いすすきなんて自分たちと変わらないくらいの大きさだから、束になっていると少し迫力もある。
 
「晴れてよかったです」
「そうだね」
 
 彼女は俺に身体を預けてくれる。彼女の重みはずっしりとして、大切な重みだ。
 
「来年は忙しくて見にこられないかな?」
「わかんないです」
 
 彼女は大きくなったお腹をさする。その表情は慈しみを含んだ優しい微笑み。もう、ちゃんと〝おかあさん〟をしていた。
 
「意外と、元気過ぎて大暴れしているかもですよ」
「だったら、また来ようね。今度は三人で!」
 
 来月の初旬に、俺は〝おとうさん〟になります。
 
 すでに三人だけれど、彼女……奥さんをひとりじめできる、最後のデート……かな?
 
 
 
おわり
 
 
 
一七八、ススキ

11/10/2024, 12:02:35 PM