手のひらの贈り物(オリジナル)(異世界ファンタジー)
天上界にはオルフェという種族がいた。
人の「頭」に当たる部分のみが存在し、身体はない。
皆、やや色黒で、黒髪。尖った耳を持ち、額には揃いの金環をつけている。
彼らは総じて魔力が高く、常に宙に浮いていた。
希少種で、王直属の魔法部隊として活躍していたが、その生体は謎に包まれていた。
そのうちの一名を、天界の王女であるフィーナが、成人の儀の相棒として指名したのが始まりだった。
その旅の間にフィーナは知ったのだが、どうやらオルフェとは、敵対する地底人を斬首した姿だったらしい。しかも罪人とは限らず、地底人の力を削ぐために天界人があえて狩りをしていたとも伝え聞いた。
金環は、記憶の封印と、強力な魔力を抑える効果があったらしく、天界人たちがつけた枷であった。
切り離された頭も身体も、それぞれに生き続けていると知ってからずっと、相棒であるカマルの身体を探し続けていたのだが、ついにその在処に辿り着いた。
地下の広い空洞に石造りのベッドが並び、それぞれに、縄で括り付けられた頭のない身体が横たわっていた。
衣服はそれなりに身をつけており、手足が時々動いている。
頭の動きと連動しているのかもしれない。
異様な光景であった。
その中に、カマルの身体もあった。
身体を拘束していた縄をナイフで切ると、頭のない身体がむくりと起き上がった。
フィーナは思わず悲鳴をあげた。
カマルは口の端だけで笑った。
頭だけのカマルは己の首の位置まで飛ぶと、正面を合わせ、切断面をピタリと合わせた。
すると、接着面が綺麗につながり、見慣れぬ一人の、五体満足の地底人が、そこに復活した。
カマルはベッドから恐る恐る立ち上がった。
フィーナが少し見上げる位置に、彼の顔がある。
結構背が高い。体つきもがっちりしている。
栄養を、どう届かせていたというのだろう。
オルフェとは、否、地底人とは、本当に謎生命体で面白い。
二人の目が合った。
「おめでとう」
祝辞をおくると、普段は全く素直でない彼も、その顔に喜びを滲ませながら、
「ありがとう」
と、礼を言った。
フィーナは少し興味が湧いて、カマルの手を取った。
「…温かいのね」
「そりゃ、一応、生きてるからな」
「首はどう?ちゃんとくっついた?」
「うーん、頭だけの期間が長かったから、まだ違和感あるかな?」
そう言うとカマルは、肩をほぐすように頭を左右に傾け、それから、右を向いて、後ろを向いて、そのまま左へと一周して、前を向いた。
ホラーである。
「ひゃー!ちょっと!首くっついてない!怖い!気持ち悪い!」
「ははっ!」
鳥肌を立てるフィーナを見て、カマルは楽しそうに笑った。あまり笑顔を見ないので驚いた。新鮮である。
「まぁ、なんとかやるさ」
彼は首をすくめて、いたずらっぽく笑った。
と、すぐにその顔を真剣な面持ちに変えると、片手でフィーナを引っ張って石造りのベッドの陰に身を隠すように誘導した。
口の動きだけで「追っ手?」と聞くと、頷く。
鋭い目線で、洞窟の一方を見つめていた。
来たのとは反対方向にも、どこに出るかわからない道が続いている。そちらに向かうかと目だけで問うと、頷いて、移動を開始した。
手を繋いだまま。
(頭だけの時はできなかったな)
危険が迫っているというのに、どこか呑気にフィーナは考えた。
これまで、誘導は目線か口頭だった。カマルから魔法の援護はあるが、フィーナは基本一人で様々に対処してきた。
(身体があると、こんなに違うのか)
驚きだった。また、少し気の毒にも思う。
(頭だけなら、物音立てず、移動も楽だったのにね)
それでも、本来の姿を取り戻した事は、何より喜ばしく思う。
天界人として、同族の贖罪の気持ちもあった。
そして何より、旅の間、身体さえあれば、こんな風に守ってくれる人だと感じていたそのままの彼であった事が嬉しい。
カマルの手のひらの温もりを感じながら、それを宝物のように思うフィーナであった。
12/19/2025, 3:14:05 PM