おうち時間でやりたいこと
「『ドカベン』って、全巻あわせて200巻以上出てるの知ってる? 読破に挑戦したくてとりあえず最初の30巻まとめ買いしちゃったから、今度の週末に読もうと思うんだ。よかったら付き合ってくれない?」
友だち以上恋人未満。
どっちかが一押ししたら間違いなく交際に至るけど、どちらもなんとなく言い出しづらい。
そんな距離感だと信じたい、いい仲の彼女にそう誘われた。
200冊以上のマンガを読破する壮大な計画に誘ってくれたのだから、やはりこれは、脈というものがあるのだろう。喜んでご一緒したい。
だけど僕には、OKできない理由がある。
その日は忙しい?
そんなことはない。暇である。
マンガが苦手?
そんなことはない。毎月二十冊は読む。
実は妻子がいる?
そんなことはない。戸籍の上でもリアルでも、きれいさっぱり、独り身だ。
それでもその誘いに頷けない理由。それは。
「ごめん、僕、野球のルール知らないんだけど…それでもいい?」
そうなのだ。ちょっと恥ずかしいのであまり人には言ってないが僕は野球を知らない。生きてく上で、何故か実績解除できなかったことって、誰しもひとつやふたつ、あるじゃないか。
俺の返事を聞いて彼女は笑った。
「そんなのどうでもいいよ。良ければ教えようか?」
この週末、僕は生まれて初めて野球のルールを知る。もしかしたら彼女ができるかもしれない。
5/13/2023, 7:05:21 PM