ありす。

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「ありがとう勇者様。この地を救ってくれて」

目の前に広がる景色。
何千人の国民が集まり、歓喜の声を挙げる。

初めて太陽を見る者やもう見れないと思い生きていた者。
この地に平穏が訪れた事への喜びを人々は挙げていた。

「ありがとう勇者様!」

完成の中、聴こえたその言葉。
「勇者」と呼ばれたその人はただ静かに泣いていた。
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都市から数百キロも離れた場所に勇者の故郷はあった。
絵に書いたような平和で、事件もなくただ日がな1日空を見上げて過ごすくらいには平凡で退屈だったのだ。

「何してるの?」

「星を見てる」

1人の少女が1人の少年に近付いて話しかけていた。
少年はぶっきらぼうにそう少女に言うとまた、星空を眺めだした。

「それ楽しいの?」

「楽しいとか…ない」

「へぇー。そうだ!星と星を繋ぐと星座になるって知ってた?」

少女は緋色に輝く瞳を細めて少年に話しかける。
少年は話したくなさそうに一言で会話を終わらせていく。

「私もあの星みたいにいつかなれるかな?」

そう言った少女の顔を少年は、今この瞬間初めて見たのだ。

「ねぇ、一緒に逃げよう。この世界から」

その瞬間、少年は全てを思い出した。
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勇者と魔王はなんで敵対しないといけないのか。
勇者はあの日からずっと疑問に思っていた。

対等になれないことは知っている。
勇者も自分の故郷を無惨に滅ぼされた1人なのだから。
でも、勇者はわかっていた。
自分が魔王を倒すことをましてや殺すことを躊躇していることを。

「勇者サマちゃんと飯は食っておけよ。今度は長期戦になるんだから」

パーティの1人、大柄な男にそう告げられる。
勇者は俯きながらも骨付き肉に齧りついた。

「最期の戦い。これで全てが終わるんだな…」

「そうだね。早く終わらせないと…」

「勇者サマとの旅ももう最期か…」

ゴクリと喉を鳴らし肉を飲み込む。
勇者は今まで一緒に旅してきた仲間の眼を真っ直ぐに見つめいつものように言う。

「本当に最期の戦いだね…」
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何百回目の夜を超えて勇者は、仲間と共に魔王城に辿り着いていた。

回復も残り僅かだが勇者は知っている。
いや、覚えている。
絶対に魔王を倒すことになることを。

魔物の群れを薙ぎ倒し、「早くいけ!魔王の元へ!」と仲間に言われるがまま勇者は1人魔王がいる最奥へと走って行く。

大きなトビラを勢いよく開ければ趣味の悪い玉座に座る「魔王」と呼ばれたその人がいた。


「久しぶりだね」

「そうだね」

「魔王」と呼ばれたその人は妖しく輝く緋色の瞳を細めて「勇者」と呼ばれたその人に話しかける。

「あの日から…ずっと疑問に思っていた。なんで僕らは敵対しないといけないのか」

「それは私は「魔王」できみは「勇者」だからだよ」

「そんなの誰が考えた誰かのための物語だろ?なんで…僕らは「魔王」と「勇者」なんだ…ねぇ、一緒に…」

「ダメだよ。これは私たちの物語じゃないから。でも私はきみと話した…あの夜を忘れないと思う」

玉座から立ち上がるや否や魔王は、勇者の目の前に刃を振り降ろした。
勇者は何度も何度も握った剣で間一髪ガードが出来た。

「私はこの世界を支配するから」

「そんなことはさせないから」

勇者は知っていた。
魔王が放った台詞を。
自分の口からでたこの台詞を。
この物語は誰かのための物語ということを。
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何かの予兆のように星たちがひときわ煌めく星空の下。
1人の少女と1人の少年が星空を眺めた。

「私もあの星みたいにいつかなれるかな?」

少女の星のように輝く緋色を少年は見つめた。


「ねぇ、一緒に逃げよう。この世界から」


永遠に応えが聞けないその言葉を「少年」はまた「少女」に問うのだった。

4/6/2024, 8:48:54 AM