『風が運ぶもの』
春の初めに君と出会った。
ポニーテールを揺らしながらランニングをする彼女を見かけたのは、家から徒歩10分の大きな公園だった。
サッカー場や野球場が併設され、サイクリングやランニング用の道が整備された公園のベンチに僕は座っていた。
2キロ走っただけでヘトヘトになり休憩していた僕の目の前を爽やかに駆け抜ける彼女の姿が印象的だった。
脂肪でぷくぷくに太った僕と違い、彼女の手足はしなやかに長く、筋肉で引き締まった身体が美しかった。
しばらくして彼女がまた僕の目の前を通り過ぎる。
その軽やかな姿につられて僕も彼女の後ろを走り始めた。
彼女に追いつこうとして、僕は無様に転んだ。
ズデン、と大きな音を立てて転んだ。
彼女は音に振り向き大丈夫ですか?
と僕に手を差し伸べてくれた。
ふんわりと柔軟剤に混ざって汗の匂いがする。
美人は汗もいい匂いなんだな、と変態じみたことを思いながら立ち上がる。
あれから数日後、僕は毎日彼女を求めて公園に走りに来ていた。
風の強い日だった。
また3キロ走ってクタクタになり、ベンチで休憩していると風でなにかが飛んできた。
それは以前嗅いだことのある匂いのするタオルだった。
もしや、と思うと予想は的中。
彼女が駆け足で僕の元へ来る。
風が、彼女を運んでくれたみたいだ。
風が運ぶもの、それは恋なのかもしれない。
そんなことを思いながらまた彼女と走り出した。
2025.03.06
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3/6/2025, 1:45:06 PM