【哀愁をそそる】
小さくこぼれ落ちた切ない吐息。長い睫毛に飾られた伏し目がちの瞳が、薄い膜を張り淡く揺らいでいる。人形のように整った美しい顔立ちも相まって、あまりに哀愁をそそる表情だった。何でも言うことを聞いてやりたいと、そう無条件に思ってしまうほどに。……これが昔からずっと隣にいた、頑固でワガママな幼馴染でさえなければ。
「ばーか。俺にそのおねだりが効くと思ってんの?」
ピンっと人差し指で白い額を弾いた。そういう儚げな顔をしておけば周りが思うように動いてくれると理解していてやっているのだから、相変わらず性質が悪い。途端、その柳眉が不機嫌そうにひそめられた。
「やっぱりダメかぁ」
「ダメに決まってんだろ。おまえがたいがい図太いこと、俺はとっくに知ってるんだから」
せっかくの美貌を台無しにしてむぅと頬を膨らませるおまえに、俺は思わず笑ってしまった。
11/5/2023, 2:58:41 AM