テーマ:どこにも書けないこと
まだ未熟だった学生時代の私には、心の内にある思いを言葉にすることが難しかった。
暗い気持ちも、言葉にして吐き出せたなら、どんなに楽だっただろう。
そんな、情緒不安定になりがちな心を救ってくれたのが、ピアノだった。
「あの!」
ピアノの発表会のあと、見知らぬ人に呼び止められた。
あのとき、その人に何と言われたのかは覚えていない。ただ、驚いたことだけははっきり覚えている。
私は見知らぬ誰かの心に、ピアノ演奏で何かしらの余韻を残したらしいのだ。
ベートーヴェン《悲愴》第一楽章。
毎日練習するうちに、私の激しい悲しみのような心が、音に乗り移ってしまったのかもしれない。
「―――」
あの黒い感情を指先に乗せ、公共の場で演奏していたのだろうか。
そう思うと、自分のことながら、少しぞっとする。
2/7/2026, 2:23:19 PM