﨑zaki

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 (+誰よりも+10年後の私から届いた手紙)
            2026年2月18日水曜日+
 卵が割れてしまった。
 私が落とした衝撃でその身を壊されながら、黄身を抱えたままでいる白い殻。それは、誰よりも子を守りたいと欲しているのに、その甲斐性を持たない母親を彷彿とさせる。実際そんな場面に出会うこともないと思うけれど、妙な生々しさがあるせいで、順を追って罪悪感が募ってくる。折角無事だった黄身だから、トースターを音高く開けて、焼き途中の食パンに無理やり載せた。いい色に焦げていたベーコンを、覆い隠される。
 無様なトーストを胸元に携えて食卓を覗くと、早起き―私に比べたらそう―の居候は、新聞さながらに何か広げている。サイズはずっと小さくて、私の目には便箋に見えた。
「どなたかからのお手紙ですか。」
 問い掛けながらお皿を置いたら、思ったよりは大きな音が鳴った。大丈夫、トーストの醜さには、まだ気づかれていない。ちょっと得意気に返された。
「今朝届いたんです。」
 右手でお箸を支えたまま、厚揚げみたいな量感の封筒を左手に取り、宛名と差出人の字を交互に見せてくる。それで私は目に力を入れるのだけど、やはりうまく読み取れなくって再度尋ねた。
「誰からですか?」
 一瞬不思議そうに口が開くけれど、すぐ、失念したという表情に移る。この素直さがあるから、この人は好ましくて、長くいればいいと、思っている。
「10年後の私から。」
 それって、あまり面白味の分からない冗談だなと思った。どう反応するべきか、考えるのは億劫になったから黙って、椅子に座る。無色のコップ片手に牛乳パックに手を伸ばしたところで、便箋の束に、しおりが挟まれているのに目が留まった。
「冗談を聞き流した手前どうかと思ったのですが、それ、そのしおり。とても良いかんじですね。」
 名も知らない薄紫のお花と、見知ったツユクサの押し花が共生しているそれは、昔持っていたお気に入りのしおりに、よく似ているように思われた。
「やだな、冗談じゃないのに。この栞も、10年後の私からの物でしてね……」

 こんな失敗した朝ご飯も、かのバーベナも、同列に素敵に思えてきた。そのうち家から居なくなるこの人も、私自身だって。大切にしたい、お気に入り。


場所をとっておきたいので、未完で失礼します。明日中には形になるよう努力します。
少しのこれまでと、長くなるこれから、わたしに向かって「もっと読みたい」と伝えてくださる方々に、心から感謝を申しあげます——19:12

2/18/2026, 10:13:25 AM