気の利いた言葉なんて、咄嗟には出ないもんだ。
泣き腫らした目元の、涙を拭うハンカチだって携帯してない。
一流企業に勤めてもない、ただの夜間清掃バイトだし、いつも生活はカツカツ。
チビデブハゲ眼鏡のファッションセンスの欠片もないモテない三十路野郎で、ストレス解消はネトゲでイキることしかなくて。
恋愛どころか女の子の知り合いすら居ない、どうしようもない小者。
でも、掴んでしまった。
終電一本前の電車の前に飛び込もうとした女の子の腕を。
ごめんね、大丈夫?、いや痴漢とかじゃないから、そんな勇気ないからホントに。しんじて。
脳内では、早口で言い訳がましい言葉が流れてくるが、口の中はカラカラに乾いて何も言葉が出てこない。
暫く、見つめ合っていると、電車は何事もなく走り去ってしまい、閑散としたホームに二人だけ取り残された。
ホームの椅子に並んで座り、女の子にコンポタを奢る。
ミジンコ程のコミュ力をフル回転させて、話を聞けば高校生だと、過換気気味の鼻声で呟く。
辛いことも悲しいことも、誰かにイジメられている訳でもない、ただふとした瞬間に、無性に寂しくなって死にたくなるのだと、女の子は絞り出す。
なんて答えれば良いのだろう?
贅沢だ甘えんな、そんなのみんな一緒だよ、ありとあらゆる慰めの言葉が浮かんでくる。
どれも違うな、と思って都会の真っ暗な夜空を見上げて深呼吸。
終電まで、あと十分。
それくらいまでには、納得解も出てくるだろう。
テーマ「星空の下」
4/5/2023, 4:39:47 PM