「にしても気の毒よね、殺されちゃうなんて」
「なにが??」
「あんた知らないの?元恋人に駅で刺されて死んじゃったの、まだ女の子若かったのに。男の子は特急に飛び込んで自殺したって、でも本当に好きだったら殺さないで相手の幸せを願うものじゃないのかねぇ。」
最近あった事件らしい。テレビを見なくなってからめっぽう時事問題に弱くなった私は知らなかった。
気になって調べてみると殺されてしまった女の人が可哀想とか、警察は対応しなかったのか、周りで見ていた人はどうして放っておいたのか。止められなかったのか等とネットでは騒がれていて、中には男の人の経歴について調べあげて特定している人までいた。
「私はわかる気がする、殺したいほど憎い人ってやっぱりいるよ」
「なにあんた、いつの間にそんなこと思うようになったの」
「20年も生きてれば色んなこと経験するよ笑昔の私だったら絶対にこんなこと思わなかったけれど自分の命差し出す代わりに殺したい人いるもん」
「私はそんなこと馬鹿だと思うけどね〜、お縄になって一生塀の中だろう。それだったらローソンのからあげクン食べてた方がましだよ。ほら、ついたよ。気をつけて言ってきな。」
「そうなんだよね。でも分からなくなっちゃうんだよね。行ってきます」
よく昔は学校が息苦しくて、生きているのが辛くなる度に突発的に夜行バスを予約して大阪まで行っていた。
ウイルスが蔓延して旅がしづらくなって、人との上手な付き合い方を身につけた私は一人旅に出なくてもなんとか生きていけるようになった。
夜行バスの窓際でほんの少し、周りに迷惑にならないくらいカーテンを開けて音楽を聴きながら1人で考え事をする時間が唯一楽な時間だった。
住んでいる環境からどんどん離れていける、からかってくるクラスメイトも学校に来いと怒鳴りつけてくる先生もいないたころにいける、誰も私のことを知らない場所にいける。
自由になれる瞬間がだんだんと近づいていく時間
夜は良くないことまで考えすぎて自分のことを見失ってしまうけれど、唯一夜行バスの中での時間は冷静に自分と対話をすることが出来た。
助産師を諦めないで心ざそうと決めたのも夜行バスだった。
何故男の人が女の人のことを刺し殺したのか、理由は私には分からない。
もしかしたら、別れて女の人が自分以外の男の人と付き合うことがどうしても受け入れられなかったのでは無いかと言う考えが頭に浮かんだ。
他の男に取られるくらいなら、殺して自分を死んだ方がましと思ってしまったのかもしれない。
それか相当の恨みでもあったのだろうか。
言葉にできない、けれど自身の中でぐるぐると渦巻く感情があったのかもしれない。
きっと同じことをする勇気があるのならば、私も殺したい人を殺して自分も死ぬだろう。
たとえ人生棒に振ったとしても、殺してしまうのだろう
寧ろ殺してくれと強く思う。
世の中に幸せなことは沢山ある。四季折々に花が咲くからファインダーに収めることも、毎月出る新書を見繕って読むことも、新曲が出たら聴く事も友達と突然ドライブにいったり温泉に行ったりすることも。
こうして夜行バスに揺られながら自分の人生について考えることも幸せな事だ。
けれど人は堕ちてしまうとなかなか這い上がれなくなる。特に対人の事もなると視野がすごく狭まってしまう
だからきっと彼はなにも見えなくなってしまって、彼女を殺して自分も死ぬという選択がベストだと思ってしまったのだろう。
希望を持つ勇気がない。
希望が無くなってしまうのが怖いから、1度失った辛さをもう味わいたくないから
けれどこのまま絶望にいるのが嫌でどうしていいのか分からなくなる。
一思いに飛び降りてしまえば楽なのだろう、けれどその勇気すら私には無い
毎回夜行バスに乗る時は人生の分岐点になるのだ、自然に
今回はどんな分岐になるだろうか。
前回は絶望へ到着してしまったから、今回はすこしでも明るい未来が見えることを願いながら流れる光をじっと眺めている。
(本文章は実際の事件とは全くの無関係です。
男性側を擁護している訳ではありません。亡くなってしまった方のご冥福を心よりお祈り申し上げます
ご気分を害された方申し訳ございません)
4/11/2023, 4:19:26 PM