一華

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雪なんてもう何年も見ていない。あたたかい地域に引越しをしたから。
昔は、うんと昔の子どもの頃は、雪が積もる度にはしゃいだ。
雪だるまやかまくらを作り、雪合戦をした。
大人になってからは、煩わしさしかなかった。
早起きをして、出勤前に雪掻きをしなければならないから。
けれど、ここに住み始めてから。……途端に雪が恋しくなった。
さほど寒くない冬は快適だ。持っていた防寒具のほとんどを手放した。
雪掻きをする必要がないから、朝はギリギリまで寝ていられる。
そもそも日照時間が長い。どんなに空気が冷えていても、日差しが心身をあたためてくれる。
けれど時々、雪が恋しくなる。
あの劈くような寒さ。空気が凍りつき、世界が閉じていく錯覚をする。外気に晒された皮膚はピリピリといたみ、指先の感覚はない。曇天。やがて、降雪。
懐かしい、あの冬。

1/8/2024, 12:30:21 AM