「へ〜、じゃ、高校生?」
「はあ、まあ」
なんでこんなことになっているのか、内心で首を傾げる。
夜もいい時間の、夏の公園のベンチだ。
すき好んで訪れようとは思わない場所になぜ知らない男と二人で座っているのか。
家にはまだ帰れない。
この公園は家に入れないときの逃げ場所だった。
茹だるような暑さの中時間を潰していたところ、この男に冷えたサイダーの缶を押し付けられたのだ。
そのまま有無を言わせず隣に座ってきた男は頼んでもいないのにベラベラと喋り始めた。
「ていうか暑いだろ。水くらい飲んどかないと倒れるよ?」
「あ〜、まあ、そうっすね」
「今の子って水筒とか持たない?まあ今の時代自販機もコンビニもあるしな〜」
「そっすね」
アンタだってそんなに年変わんないだろ。
そんなことを思いながら適当に返事をする。
こんな相づちしか返ってこないのに随分と楽しげに話す男だ。
警官かどこぞの教師か。
最初は警戒していたが、あまりの他愛ない話の連続にそんな気も失せてしまった。
多分気を遣わせているのだろう。
普段だったら煩わしいそれも、この時間のためなら悪くない気がした。
男の話を聞きながら、家の方向を見る。
多分そろそろ、帰れる頃だった。
「さて、じゃあそろそろ行こうかな」
夏の暑さの中、夜の公園で見ず知らずの他人の孤独に付き合い続けた奇特な男が立ち上がった。
男の顔を幾筋もの汗がつたい、シャツは汗を吸い込んで色を変えている。
手の中の缶は既にぬるくなっていた。
男のせいでまぎれていた寂しさや閉塞感が急速に戻ってくる。
結局一緒にいてはくれないのに、最後にはおいていくのに、自分勝手な正義感で話しかけてくるなんて迷惑な男だ。
そしてそれをわかっていながら男の存在を拒まなかった自分は愚かだった。
だから、一人でいたい。
返事をしない自分に何を思ったのか、男が額を押してくる。
強制的にあげさせられた目にうつったのは満開の笑顔だった。
「じゃ、また明日な」
名残惜しさもなく去っていく男の背中を唇を噛みながら見つめた。
わかっているはずなのに。
一人がいいのに。
7/31/2024, 11:08:33 AM