今日のテーマ
《忘れられない、いつまでも》
「おおきくなったら、およめさんにしてくれる?」
「いいよ。忘れてなかったらね」
「ぜったい、ぜったい、わすれないよ!」
「あはは、いつまで覚えててくれるかな。いや、他に好きな男の子ができる方が先かな?」
「ほかのおとこのこなんか、すきになんないもん! ぜったい、ぜーったい、おにいちゃんのおよめさんになるの!」
「はいはい。楽しみにしてるよ」
6つ下の従妹はまだ幼稚園児だ。
今日は親戚の結婚式で、花束贈呈の大役をこなしたばかり。
間近にウエディングドレスの花嫁さんを見て、すっかりその気になったらしい。
幼稚園児とはいえ、そこは女の子。
おませな憧れは、一番身近な男――つまりオレに向けられた。
そういえば、幼稚園の時にも、同級生の女の子から大人になったら結婚してって言われたことあったな。
その女子は、今は上級生のナントカ君に夢中だけど。
何ならこないだ「同学年の男子ってガキくさくて絶対ナシ寄りのナシだよね」とか大きな声で喋ってるのも聞いたけど。
自分から告白してきてべったり離れなかったあの頃のことなんてもう覚えてないんだろうな。
妹みたいに可愛いけど、実の妹よりずっと可愛い天使のような従妹。
この子もきっとあと何年かしたらクラスの女子みたいに今日のことなんか忘れてしまうんだろう。
オレだって、いつまでも覚えてるかはわからない。
大人になって彼女とかできたら忘れちゃうかもしれない。
それでも、この微笑ましくも可愛い告白を、できる限り忘れたくないと思う。
もしも覚えていられたら、この子の結婚式で、この子の結婚相手に、ドヤ顔で自慢してやろう。
それから20年の時を経て。
「絶対忘れないって言ったでしょ」
世界一綺麗な花嫁が、オレの隣で誇らしげに笑う。
ドヤ顔で自慢するのは鏡の向こうの自分相手になるわけだが、それはそれで悪くない。
あの幼くも可愛らしいプロポーズを、きっとオレはこれから先も、ずっとずっといつまでも、忘れることはないだろう。
5/10/2023, 7:30:24 AM